研究課題/領域番号 |
18H02394
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
南後 恵理子 国立研究開発法人理化学研究所, 放射光科学研究センター, 客員研究員 (90376947)
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研究分担者 |
浅田 秀基 京都大学, 医学研究科, 特定助教 (20399041)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | X線自由電子レーザー / Gタンパク質共役型受容体 |
研究実績の概要 |
様々な病態と深く関与するGタンパク質共役型受容体(GPCR)は、重要な創薬ターゲットであり、活性化機構の解明が非常に期待されている。GPCRが活性化状態に至る動的過程を捉えた構造の情報が得られると、シグナル伝達の強弱を望みのままに制御することが可能な部分アゴニスト、部分アンタゴニストの開発に貢献できる。そこで、本課題では、GPCRの不活性化から活性化状態に至る詳細な構造情報取得を目指す。ターゲットは、GPCRの一種である視覚ロドプシンとし、動的構造解析はX線自由電子レーザー(XFEL)による時分割結晶構造解析法を用いる。視覚ロドプシンの機構解明は,視覚のメカニズム解明に貢献し,更にGPCR全般の活性化機構の解明にも寄与すると期待される。X線自由電子レーザーは、今世紀に入ってから実用化された新たな放射光源であり、超高輝度、超極短パルスなどの特性を有する。XFELによる時分割結晶構造解析は、動的構造情報を原子レベル且つ高い時間分解能で得る現在唯一の手段である。しかしながら、XFELの非常に強いフェムト秒パルスレーザーという特性により、従来の回折実験方法や解析手法はそのまま適用することはできず、測定技術の開発が必須である。我々はXFELを用いた時分割結晶構造解析の技術開発により、光感受性膜タンパク質であるバクテリオロドプシンなどが、構造変化する様子を捉えることに成功してきたが(Nango, E. et al, Science 2016など)、より微弱な光で崩壊する視覚ロドプシンにおいては、新たな装置や技術開発が必要である。そこで当該年度では、XFELによる回折実験装置の開発とXFELでの測定に適したロドプシンの発現、精製、結晶化検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
X線自由電子レーザー(XFEL)による結晶回折測定方法として、シリアルフェムト秒結晶構造解析が知られている。この方法では、結晶を高粘度媒体などに懸濁し、100ミクロン程度の細いストリームとして低流速で流し、X線自由電子レーザー(XFEL)による回折像取得を行っている。光で反応するタンパク質の反応に伴う動的構造の追跡には、可視光レーザーを結晶に照射して反応を開始させ、続いてXFELの照射を行う。結晶を輸送する装置やその技術は様々に開発されてきたが、現在主に使われている高粘度媒体による連続的な結晶輸送方法は、可視光レーザーによる光散乱の影響があるため、僅かな光でも反応する視覚ロドプシンには適していない。そこで、試料を液滴として「少量ずつ分離」し、ベルトコンベアで輸送して測定する不連続型結晶輸送装置の開発を行った。実際に開発した装置はXFEL施設SACLAにて、モデルタンパク質数種の微結晶を用いて回折実験を行った。その結果、構造解析に十分な回折像を得ることに成功した。また、XFELによる構造解析を行うのに十分な量・質の結晶作成を目指して、ロドプシンの発現及び精製を行い、数種の高等生物由来ロドプシンを安定的に得ることに成功した。また、ロドプシンは、暗室下で精製、結晶化、測定を行う必要があるため、暗室下で実験を行うための環境整備を行った。
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今後の研究の推進方策 |
不連続型結晶輸送装置については、基本的な測定基盤は構築できたが必要測定試料量が多いことや、液滴中の結晶に1.5 umサイズのXFELビームが当たる率が低いため、実験効率を上げるための改善を行っていく。また、可視光レーザーを本装置に組み込み、反応開始に伴う構造変化を捉えるための装置開発検討も行う。開発した装置については、今年度中に実際にSACLAで実験を行う予定である。また、高等生物由来ロドプシンの結晶化については、精製と安定的単離に成功したので、次に結晶化の検討を行う。高い空間分解能で構造情報を得るために、従来行われてきた蒸気拡散法による結晶化だけでなく、脂質を用いた結晶化方法であるLipidic cubic phase法なども検討する。
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