研究課題
鉄や亜鉛・マンガン・銅などの金属元素の多くはさまざまな生体内でのプロセスに必須のコファクターであるが、逆に過剰に体内に存在すると有毒な作用をもたらすため、これらの金属元素の体内の濃度は綿密に調整されている。たとえば、鉄イオンの代謝のバランスが崩れると貧血や鉄過剰症となる。したがって、このような金属イオンの吸収・輸送・排出などの過程について原子および分子のレベルでも詳細に解析することは、金属の代謝に関連する疾病の原因を探り治療するうえで鍵となる。本申請課題では、生体金属の細胞の内外での輸送において重要な役割を果たす膜タンパク質やトランスポータータンパク質の立体構造解析と分光解析を目指している。本年度はそのための試料精製、結晶化、結晶構造解析を行った。また、細胞を用いた機能解析の手法確立を進めた。膜結合型の鉄還元酵素であるduodenum cytochrome b (Dcytb)は、ヒトの小腸上皮細胞で管腔からの鉄イオンの効率的な吸収に関与している。脂質中で結晶化したDcytbの結晶構造解析を行った結果、電子供与体であるアスコルビン酸をタンパク質が認識する機構が明らかとなった。タンパク質の管腔側の分子表面のヒスチジン側鎖に金属イオンとして亜鉛イオンが結合しているが、その亜鉛イオンはもう一つのアスコルビン酸からも配位された状態で結合していることから、キレート化合物の存在が金属イオンのタンパク質への結合を安定化していることが推察された。この機構は酵母細胞を用いた生化学的実験によっても確かめることができた。これらの成果については学会および論文報告と、プレスリリースを行った。
2: おおむね順調に進展している
ヒトのduodenum cytochrome bについては電子供与体であるアスコルビン酸と鉄イオンのアナログとして亜鉛イオンを結合させた状態の結晶構造とフリー型の結晶が得られており、それらの構造について報告を行った。モノマー分子あたり6回の膜貫通ヘリックスとコファクターとして2つのヘムがあり、2量体を形成している。電子伝達のアスコルビン酸の結合様式や電子伝達機構について明らかにした。ヘム輸送体の試料調製に関しては、蛍光タンパク質のタグを付けて酵母で発現させたが、問題点として一部フラグメント化している可能性がある。
duodenum cytochrome bはその基質となる鉄イオンとの複合体構造が得られていないため、結合サイトの詳細な情報を得ることを目指す。また、鉄還元酵素と鉄イオンのトランスポーターが連携した鉄イオン輸送の分子メカニズムを解析するために、腸管上皮細胞モデルを用いた鉄輸送アッセイシステムの構築を進める。ヘム輸送体の試料調製に関しては、由来生物を脊椎動物に加えて寄生性原虫の遺伝子にタグを付けて酵母で発現させ、スクリーニングを行う。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (1件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 4件) 備考 (2件)
Communications Biology
巻: 1 ページ: -
10.1038/s42003-018-0121-8
http://www.riken.jp/pr/press/2018/20180820_1/
http://www.spring8.or.jp/ja/news_publications/press_release/2018/180820/