研究課題/領域番号 |
18H02406
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
宇留野 武人 九州大学, 生体防御医学研究所, 准教授 (80532093)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | がん / 免疫回避 / DOCK1 / インターフェロン |
研究実績の概要 |
細胞骨格を制御するRac活性化因子DOCK1が、がん細胞の浸潤転移・生存増殖のみならず、腫瘍による免疫回避にも寄与している可能性を検証するために、今年度は、CRISPR/Cas9システムを利用したゲノム編集法を使って、マウス及びヒトの各種がん細胞株のDOCK1欠損株を作製した。このうち、一部のがん細胞株では、DOCK1欠損によって、抗原特異的CD8+Tリンパ球による細胞障害性が親株に比べて有意に亢進することを明らかにした。また、DOCK1欠損がん細胞株においては、ISG15, IFIT1, RTP4といったInterferon stimulated genes (ISGs)にカテゴライズされる複数の遺伝子の発現が顕著に低下することをqPCR法によって同定した。一方、ISGsの転写・発現制御に中心的な役割を果たすことが知られている転写因子STAT1については、それ自身の発現にはDOCK1欠損による有意な差が無かったことから、転写・発現制御以外の調節機構(翻訳後修飾等)を介して機能制御されている可能性が示唆された。また、DOCK1を介した腫瘍の免疫回避機構を個体において検討するために、膵臓癌を自然発症するKPCモデルマウスを導入し、DOCK1遺伝子を膵臓特異的に欠損できるDOCK1 conditional knockout(cKO)マウスを交配し、膵臓におけるDOCK1発現、及びcKOマウスにおける膵臓特異的なDOCK1発現の消失を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)DOCK1欠損株を作製し、DOCK1欠損によってCD8+Tリンパ球による細胞障害性が有意に亢進することを確認できた。この現象の普遍性を他のがん細胞株を用いて検証する予定である。一方、細胞障害性が低下する具体的なメカニズムについては、未だ不明であるが、発現変化の大きかったISGsの機能解析を通じて明らかにできると考えている。 (2)DOCK1下流におけるSTAT1の制御が、遺伝子発現レベルでなく機能的なレベルでの調節の可能性が高いことが分かった。今後は様々な生化学実験によって、具体的なメカニズムを同定していく。 (3)DOCK1によって発現制御されるISGsの中では、IFIT1やRTP-4といった抗ウィルス感染に関わることが既に証明されている分子よりも、免疫系への寄与が散見され、具体的な作用機序が不明であるISG-15を優先的に機能解析を進めていく。 (4)作製したKPC-DOCK1cKOモデルで、生存率や発症頻度を経過観察中である。
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今後の研究の推進方策 |
DOCK1を介した免疫回避ががんの悪性化に寄与していることを実証するために、細胞レベルでは、ISGsの発現や機能調節を介してリンパ球の細胞障害性に対する感受性に変化があることを証明していく。また、個体レベルでは、マウスの腫瘍発症モデルにDOCK1cKOを導入し、DOCK1欠損の影響を腫瘍の発生度や、ISGs遺伝子発現プロファイル、がん部に浸潤した免疫細胞プロファイルの変化等で比較検討することを通じて、腫瘍におけるDOCK1の機能を明らかにしていく方針である。
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