研究課題/領域番号 |
18H02408
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
茅 元司 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (00422098)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 心筋ミオシン / 超解像 |
研究実績の概要 |
2018年度の計画は,1) これまでの心筋ミオシンフィラメントの力計測結果を踏まえて,心筋ミオシンフィラメントの力発生を特徴付ける心筋ミオシン1分子特性の検討,2) 高速超解像イメージングに向けたリング状レーザー照明による全反射顕微鏡の開発,3) 同一フィラメント上における心筋ミオシン複数分子の動態解析の実行であった.計画1)において,心筋ミオシンフィラメントの力発生の特徴は,骨格筋ミオシンフィラメントの力発生に比べて,力が上昇する過程において頻繁に力の低下を伴うことであった.この特徴を生み出す分子特性をシミュレーションモデルから予想したところ,力発生時の構造変化(パワーストローク)とは逆向きのリバースストロークが頻繁に起こることであった.そこで,心筋ミオシン1分子のみがアクチンと相互作用できる実験条件下でアクチンに固定したビーズを光ピンセットで引っ張ることで負荷を作用させたところ,ミオシンがリバースストロークとパワーストロークの2状態を構造的な安定点として往来する現象を捉えることに成功した.一方この実験を骨格筋ミオシンで実施すると,このような現象が起きることは極めて稀であった.よって,多分子集合体であるミオシンフィラメントの力計測,シミューレーション,そして1分子の構造計測から,心筋ミオシン分子集団の力発生を特徴付ける1分子特性を導き出すことに成功した.計画2)においては,アキシコンレンズを用いたリング照明による全反射照明顕微鏡の完成に至った.この顕微鏡で得られる金ナノ粒子の散乱像は極めて等方的な輝点強度分布となり,入射光の偏光面に依存しない散乱照明の確立に成功した.しかし回折限界内の複数の金ナノ粒子が分布した場合,散乱像が大きく揺らぎ何らかの干渉があることが判明し,今後はその対処法の検討が必要である.そのため,計画3)の回折限界内の複数分子の動態計測には至らなかった..
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2018年度の計画3)の実施においては,超解像イメージング法を用いあることが必須である.この超解像イメージング法においては,回折限界内に位置する複数分子の各輝点強度はお互いに独立であることが前提条件となっている.しかし,金ナノ粒子が200nm前後の近傍まで互いに近づくと,その散乱強度が揺らぐことが判明した.2018年度内では,この現象が起きることを確認することはできたが,どの程度の距離から散乱強度がお互いに干渉し始めるのか確認するための定量的な評価はできておらず,またこうした現象を解明するためにはプラズモン共鳴などを用いた論理的な考察が必要であるが,こうした考察も一切できていない状況であった.以上の理由より,計画3)の実施に至らなかった.
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今後の研究の推進方策 |
今後の計画として,まず第一に粒子同士の距離とその散乱強度の変化を評価し,どの程度の距離から散乱強度が互いに干渉し合うのか検討していく.具体的には,ポリスチレンのビーズを用いた計測をまず行う.1つのビーズをガラス面に固定し,もう一方のビーズを光ピンセットで補足して,徐々にその距離を近づけていき,これらのビーズの散乱像と蛍光像を同時に計測する.蛍光像からビーズ間の距離を推定し,それぞれの距離における2粒子の散乱強度の変化を追っていくことで,どの程度の距離において散乱強度に揺らぎが起こるのか検証する.また金ナノ粒子は,使用する532nmのレーザー波長においてプラズモンを起こすので,ポリスチレンビーズとは違う特徴を示す可能性がある.金ナノ粒子は光ピンセットによるマニピュレーションができないので,キネシンと微小管を使った実験を考えている.微小管上に結合するが動かない変異型キネシンに金ナノ粒子を取り付けて,微小管上に固定する.一方,金ナノ粒子をつけた通常のキネシンをATP存在下で微小管上に流すと,微小管上に固定した金ナノ粒子に近づき,近傍を通り抜けていく様子が観察できると期待している.この方法により,金ナノ粒子同士が近づいていく過程における散乱強度変化を評価する.さらに,こうした現象を説明する理論を適応することで,散乱像の干渉効果を加味した超解像イメージング法へ発展させていく予定である.
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