研究課題
南極にて生育する好冷細菌由来低温適応酵素の低温適応機構を原子レベルで解明するため、部位特異的スピンラベル電子スピン共鳴法(SDSL-ESR)およびX線結晶構造解析法による研究を行う。低温適応酵素として、生体が糖代謝の第一段階の酵素反応として利用しているグルコキナーゼを対象とした。部位特異的スピンラベル法はシステイン残基に特異的に結合するため、ラベル剤を付加したい箇所に変異体を導入する必要がある。ところが天然に存在するグルコキナーゼの6つのシステイン残基にもラベル剤が付着する可能性があるため、まずは何か所、そしてどの部位にスピンラベル剤と反応しうるシステイン残基が存在するか検証を行った。その結果、好冷細菌由来グルコキナーゼにはひとつのシステイン残基のみしか反応しないにも関わらず、中温菌由来グルコキナーゼには3つのシステイン残基に反応することが明らかになった。さらに種々の部位特異変異体導入により、両酵素でどのシステイン残基がスピンラベル剤と反応するか確認することに成功した。次に、好冷細菌由来グルコキナーゼは1カ所、中温菌由来グルコキナーゼについては3カ所のシステイン残基をセリンに置換した変異体をベースにラベル化したい箇所にシステイン変異を加えた変異体を18種作成した。これら全サンプルについてSDSL-ESR測定を5~50℃の範囲で5℃刻みで行った。その結果、好冷細菌由来グルコキナーゼは構造の大部分を占めるドメインが温度による影響をあまり受けないことで高熱安定性に寄与していることが明らかになった。また触媒ドメインは低温でも柔軟性を減少させないことで低温適応化していることも明らかになった。これらの機能発揮に重要だと考えられるアミノ酸残基を中温菌由来酵素へ変異導入したところ、中温菌酵素の高熱安定化に成功した。本研究結果は酵素の熱安定性、低温適応化を行う基盤的知見を提供する。
令和2年度が最終年度であるため、記入しない。
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