研究課題
光活性化アデニル酸シクラーゼPACは、動物・植物で普遍的な情報伝達物質(cAMP, cGMP)の生産を光で制御できる生体タンパク質で、生体内での光スイッチとして医学的な応用が期待される分子である。PACは、最初にミドリムシから発見され以後、複数の原核生物からも相同遺伝子が見出されていたが、いずれも原子レベルでの構造・機能解明までには至ってなかったが申請者によって、ランソウ由来の光活性化アデニル酸シクラーゼ(OaPAC)における初めて原子レベルでの構造・機能解明に成功した。本研究では解明されたOaPAC光活性化メカニズムの構造科学的解明を基に、細胞内でのセカンドメッセンジャー光制御への光遺伝学の展開や、PACの酵素ドメイン改変によるcGMP光産生酵素の創出による光制御医学ツールとして基礎医学的研究を目指す。本年度では、光活性化シクラーゼによる複合的な光制御の実現に向け、分別的な複数波長の励起(マルチカラー化)を目指して、天然のOaPACはFMN (flavin-mono-dinucleotide)又はFAD (flavin-adenin-dinucleotides)を結合するため、青色光(440nm)にて光活性化がおこなわれる。そのため、OaPACの補因子をFMNからRoseo-Flavinに置換を試みた。その結果、Roseo-Flavinの最大吸収波長 505nmであるRoF-OaPACタンパク質の作製に成功し、cAMP活性測定や、反応機構、X線結晶構造解析を行い、詳細な機能・構造解析を行い、その構造を解明する事ができた。
2: おおむね順調に進展している
本年度では、OaPACの発色団であるFAMの代わりにRoseo-Flavin化合物を導入し、構造解明に向け、タンパク質の発現、精製、結晶化に成功した。その方法は、OaPAC(1-366残基) の遺伝子に、N末端の領域HisタグとFactorXaサイトを付加し、プラスミドをpColdベクターに挿入した。作成したプラスミドを用いてE. coli ArcticExpress株に形質転換し、LB培地で培養した。37℃で培養後O.D.600が0.5-0.8のときに終濃度0.5 mMとなるように IPTGを添加し、タンパク質の発現誘導を10℃で4日間行った。OaPAC菌体を陰イオン交換カラム、硫安沈殿、ハイドロキシアパタイトカラムで精製した。精製したサンプルを10 mg/mlまで濃縮し、Roseo-Flavin化合物を導入し、4℃で1日間攪拌しながら、FAMの置換を行った。その後、ハイドロキシアパタイトカラムで精製を行う。この操作を3回繰り替えることで、高純度のRoF-OaPACタンパク質の作製に成功した。また、RoF-OaPACタンパク質の結晶化を行い、分解能1.7Aで構造解明に成功した。
PACは日本の研究グループによって発見されたタンパク質で、青光により活性化アデニル酸シクラーゼcAMP分子を量産する酵素として、特性解明や生物機能光制御への展開も提唱・実行してきた(Nature, 2002)。本申請者は、PACの相同遺伝子であるOaPACの立体構造解明に世界初めて成功し、光活性化機構に関する構造科学的な研究は本研究グループが先駆的に積み上げてきた。神経興奮の光制御、いわゆる「光遺伝学、optogenetics」が急速に普及し、OaPACによるcAMPを介する生体機能光制御も概念上同類とみなされつつあるが、はるかに広範で多彩な生命活動の光制御につながり、血管新生・脳病変原生・神経回路ネットワーキング・記憶などの光発生医学現象の制御・解明・治療・創薬スクリーニングという広大な新分野の開拓を先導するものであり、かつ独創的な新領域の研究分野であると言える。このような目標に向け、今後、高純度のRoF-OaPACタンパク質のcAMP活性測定や、反応機構解明を行う予定である。また、OaPACにRoseo-Flavinが置換されたOaPAC-RoFタンパク質を哺乳類培養細胞HEK293細胞へ導入し、光制御、生物発光による細胞内cAMPの定量計測を行う予定である。
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Proc Natl Acad Sci U S A.
巻: 116 ページ: 8487-8492
10.1073/pnas.1811064116
J Biol Chem.
巻: 294 ページ: 794-804
10.1074/jbc.RA118.004038