研究課題/領域番号 |
18H02419
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
立花 誠 大阪大学, 生命機能研究科, 教授 (80303915)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | エピゲノム / クロモドメイン / 性決定 |
研究実績の概要 |
ヒストン修飾は、修飾付加酵素(writer)、除去酵素(eraser)、そしてシグナル伝達の実行部隊としである修飾読み取り分子(reader)の三者の協調的作用によってエピゲノム制御に貢献している。ほ乳類性決定遺伝子であるSryの発現は、発現する細胞種・発現のタイミング・発現の量が最も厳密に制御されている遺伝子の一つである。申請者は2013年に、H3K9メチル化eraserであるJmjd1aがSry活性化に寄与することを示した。加えて最近、H3K9メチル化writerであるGLP/G9a複合体がeraserと拮抗して作用することで、Sry発現のチューニングに貢献していることを明らかにした。本研究では、残された課題である、Sry制御の実行部隊であるH3K9メチル化readerを同定することを目標とする。この研究によって、Sry発現制御のエピジェネティックな分子機構を包括的に理解することが可能になる。 H3K9メチル化reader候補分子は、クロモドメインタンパク質であるCdylファミリー(Cdyl、Cdyl2)とHP1ファミリー(HP1α、HP1β、HP1γ)の五つを挙げた。マウス受精卵を用いてCRISPR/Cas9によるゲノム編集を行い、これまでにこれら5つの分子の欠損マウスを樹立した。2019年度は、CdylとCdyl2欠損の解析を進めた。Cdyl単独欠損では性転換の表現型は見いだせなかったが、CdylとJmjd1aの二重欠損は、Jmjd1a単独欠損の際のXY個体の性転換頻度を亢進させた。このことは、Cdylがマウスオス化に正に機能することを意味している。Cdyl2の欠損マウスの表現型を調べてみたところ、Cdyl2の単独欠損では性転換の表現型は見いだせなかったが、Cdyl2とJmjd1aの二重欠損は、Jmjd1a単独欠損の際のXY性転換の頻度を亢進させた。ただし、Cdylに比べるとその効果は弱いものであった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CdylとCdylがマウスの性分化に簡素しているとの発見はとても興味深いものであった。HP1やCdylのクロモドメインはH3K9メチル化の読み取り分子であるため、その欠損は遺伝子発現の脱抑制に働くと考えられる。よって当初の予想は、Cdyl欠損によってSryが脱抑制することで、オス化が亢進すると考えていた。ところが表現型はその逆で、Jmjd1a欠損によるメス化を亢進させることが分かった。E11.5の生殖腺を解析した結果、CdylあるいはCdyl2の欠損は性決定遺伝子Sryの発現に大きな影響を与えなかった。現在のところ、CdylとCdyl2がマウスの性分化のどのプロセスに効いているのか不明である。このため、今後はその作用点を追及していきたい。HP1のノックアウトもすでに作成済みである。HP1のそれぞれの単独欠損は、XY性転換の表現型を示さないことが分かった。現在、Jmjd1aと交配してHP1とJmjd1aの二重欠損体を作製している。これらの研究の進捗状況は当初の計画通りといってよいため、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、CdylとCdylが性分化過程のどの過程に作用しているのかを明らかにしていく。そのために、野生型、Cdyl欠損、Cdyl-Jmjd1a二重欠損胚(E10.5、E11.5、E12.5)から胎児生殖腺の体細胞を精製し、RNA-seqを行う。さらに、内在性のCdylにTy1タグをノックインしたマウスを作製し、ChIP-seqを行い、生殖腺体細胞におけるCdylの標的遺伝子座を明らかにする。また、HP1a、HP1b、HP1gの各変異をJmjd1a欠損の遺伝子背景に導入する。これらについては、Jmjd1aとの二重欠損で致死になる可能性があるため、HP1はヘテロ欠損、Jmjd1aはホモ欠損で表現型の観察を行う。観察は、成体では外部生殖器と内部生殖器の観察でおこなう。胎児期では、E13.5の胎仔の生殖腺をFoxl2(卵巣細胞マーカー)とSox9(セルトリ細胞のマーカー)で二重染色を行う。
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