研究課題
多能性の成立に必要な転写因子ネットワークの進化的起源と変容哺乳類の多能性細胞では、OCT4、NANOG及びPRDM14を中心とした転写因子ネットワークによって未分化性が維持されている。一方で、非脊椎動物のゲノムにはOCT4、NANOGは存在していない。そこで、転写因子PRDM14に着目し、その系統分布、分子進化及び発現パターンの比較解析を行った。その結果、PRDM14はOCT4, NANOGとは異なり2胚葉性の刺胞動物であるイソギンチャクのゲノムから存在しており、後口動物に広く分布していることが分かった。また、マウスPRDM14が持つES細胞の未分化維持活性を他のオルソログで機能補完実験を行ったところ、ナメクジウオ及びゼブラフィッシュPRDM14はマウスPRDM14の機能をレスキューできたが、ウニPRDM14はレスキューできなかった。マウスPRDM14は転写制御因子CBFA2Tと相互作用することで機能を発揮することが示されていたことから、ウニPRDM14とウニCBFA2Tの共発現実験を行ったところ、マウスPRDM14とマウスCBFA2Tの機能を完全に補完できることを明らかにした。次に、ナメクジウオにおけるPrdm14の発現を解析したところ、生殖系列での発現はなくゼブラフィッシュと同様に運動ニューロンで発現していることを突き止めた。これらの結果は、運動ニューロンで発現していたPrdm14が四肢動物の出現前後に多能性細胞で転用されたことで、多能性ネットワークが安定化した可能性を強く示唆しており、その成果を国際誌「Development」に発表した。
3: やや遅れている
イベリトゲイモリの実験系の立ち上げが遅れており、運動ニューロンから生殖系列へのPRDM14のコ・オプション時期とそのメカニズムに関する研究が進んでいないため。
(1)多能性の成立に必要な転写因子ネットワークの進化的起源と変容これまでの解析から、哺乳類の多能性ネットワークのキーファクターであるPRDM14は、四肢動物の出現前後に運動ニューロンから多能性細胞で「転用」された可能性が考えられる。そこで、有尾両生類であるイベリアトゲイモリと爬虫類であるソメワケササクレヤモリにおけるPrdm14の発現解析を行う。また、イベリアトゲイモリにおけるPou5f1, Nanog及びPrdm14の機能解析を行う。そのために、まずCRISPR/Cas9システムを用いた遺伝子破壊系を構築する必要がある。(2)げっ歯類特異的な多能性ネットワークの進化的起源マウスが属するげっ歯類は特有の初期胚構造(円筒形エピブラスト)を持っており、遺伝子発現パターンもヒトとは大きく異なっている。Prdm14のシス配列の種間比較解析からげっ歯類特異的なシス配列がマウスエピブラストにおける特異的なPrdm14の発現消失に関与している可能性を突き止めている。そこで、げっ歯類特異的なシス配列がPrdm14の発現様式を変化させ、その結果げっ歯類特異的な多能性ネットワークが構築された可能性を検証する。(3)ヒト多能性細胞から始原生殖細胞への変換を制御する転写因子ネットワークの同定マウスES細胞は、液性因子LIFによって未分化性が維持され、一方でヒトES細胞は、FGF2/ACTIVIN Aによって未分化性が維持される。そこで、FGF2の下流で働くELK1-MED23によるヒトiPS細胞の未分化性機構の解析を行う。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
Development
巻: 146 ページ: 1-14
10.1242/dev.168633 STEM
Biology Open
巻: 8(1) ページ: 1-12
10.1242/bio.038448
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