研究課題/領域番号 |
18H02422
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
関 由行 関西学院大学, 理工学部, 准教授 (20435655)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 多能性細胞 / ES細胞 / iPS細胞 / エンハンサー |
研究実績の概要 |
多能性細胞では、OCT4及びSOX2を中心とした転写因子ネットワークにより多能性が維持されており、転写因子PRDM14はその転写因子ネットワークを安定化する活性を持っている。ヒト、サル、ブタなどの多くの哺乳動物において、初期胚の多能性細胞におけるPRDM14の発現は継続的に維持されているのに対して、マウスでは多能性細胞での発現は一過的である。我々は、このマウス特異的なPrdm14の発現消失が、多能性ネットワークの早期消失及び体細胞分化の促進に関与している可能性を検証するために、Prdm14遺伝子領域のエンハンサー配列の種間比較を行なった。その結果、マウス上科(マウス及びラットが属する)特異的なエンハンサー領域が存在することを突き止めた。次に、マウス上科特異的なエンハンサー配列をCRISPR/Cas9で変異及び欠損させた結果、初期エピブラストで発現に重要なエンハンサー配列と、後期エピブラストでの発現消失に必要な配列を同定した。そこで、後期エピブラストで発現消失に必要な領域に変異をいれたES細胞をエピブラストへ分化させたところ、PRDM14の発現が継続的に維持され、多能性ネットワークが安定化することが分かった。また、野生型ES細胞はエピブラストへ分化誘導後、6日目までに分化に伴い継代培養が困難であったのに対して、Prdm14のシス変異ES細胞は、エピブラストへの分化が途中で止まり、安定的、かつ継続的に培養できることが分かった。この性質は、ヒトのES細胞と酷似しており、今後遺伝子発現パターンなど詳細な解析を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マウスとヒトの多能性ネットワークの種差を生み出すマウス上科特異的シス配列の同定に成功した。今後、マウス上科特異的シス配列をin vivoにおいて人工的に改変することによって、ヒト胚の性質に近い、マウス胚の作製に繋がることが期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
(1)多能性の成立に必要な転写因子ネットワークの進化的起源と変容 これまでの解析から転写因子PRDM14は、四肢動物の出現前後にその発現が運動ニューロンから多能性細胞へ「転用」された可能性が考えられる。そこで、四肢動物の祖先的形質を持っているイベリアトゲイモリを用いて、PRDM14, OCT4及びNANOGの機能解析を行う。具体的には、CRISPR/Cas9システムを用いて遺伝子破壊とその表現系解析とアニマルキャップの分化誘導系を用いて解析する。
(2)ネズミ上科特異的多能性ネットワークとその人為的改変 Prdm14のネズミ上科特異的にシス配列に変異を入れたES細胞を用いて、エピブラストへの分化誘導実験を行い、野生型ES細胞と遺伝子発現パターンを比較する。また、基底膜成分を用いたES細胞の3次元培養で立体的なエピブラストの分化誘導を行うことができる。そこで、上記のシス変異ES細胞を用いて、エピブラストの3D培養を行い野生型ES細胞と形態及び遺伝子発現の比較を行う。
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