本研究提案の目的は、マウス、ヒト及びイベリアトゲイモリにおける多能性制御機構及び生殖細胞形成機構の種間比較を行い、多能性細胞から生殖細胞への変換を制御する遺伝子ネットワークの進化的起源と変容機構を解明することである。本年度は、イベリアトゲイモリにおける転写因子Pou5f1/3及びPrdm14の機能解析を行った。まず、マウス初期胚において多能性を制御する転写因子群のイベリアトゲイモリ胚における発現解析を行ったところ、Pou5f1及びPrdm14は未受精卵に蓄積されており、神経胚期まで発現が継続した後、尾芽胚で発現が消失した。一方で、Pou5f3に関しては胚性ゲノム活性化が起きる胞胚期に発現が上昇し、尾芽胚で発現が消失することが分かった。次に、アンチセンスモルフォリノを用いてPou5f1及びPou5f3を単独及び両方のノックダウン実験を行ったところ、Pou5f1/3 DKD及びPou5f1 KD胚は原腸胚後期に発生が完全に停止し、一方でPou5f3は神経胚期に発生が停止することが分かった。このことから、Pou5f1とPou5f3はそれぞれ独立した機能を保持し、それぞれ胚発生に必須であることが分かった。また、Prdm14 KD胚は神経胚期に発生が停止することが分かった。興味深いことに、Prdm14はマウスにおいて継続的な多能性細胞での発現は観察されず、ノックアウトマウスは正常に発生する。一方で、ヒト、サルなどの霊長類やブタなどでは多能性細胞で継続的に発現している。今回、イモリにおいてPrdm14 KD胚が胚性致死になったことから、Prdm14は哺乳類全般では胚発生に重要な可能性が示唆され、マウスなどの一部のげっ歯類特異的にPrdm14の発現が着床後エピブラストで消失し、その機能が始原生殖細胞に限局したのではないかと考えている。
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