研究課題
地下圏環境には膨大かつ多様な微生物が生息しており、メタンや二酸化炭素などの動態を含めて、地球規模の炭素循環や天然ガスなどのエネルギー資源の成因に深く関わっている。しかしながら、地下圏環境に生息する微生物の実態は不明であり、とりわけアーキアについてはバクテリア以上にその実態の多くは不明のままである。そこで、本研究では、陸域地下圏環境に生息する未知アーキアとその周辺微生物群の実態を、環境ゲノム情報解析技術と培養技術を駆使して明らかにすることを目指している。本年度は、継続して、国内の複数の地下圏環境試料について、地化学分析ならびに微生物学的解析を進めるとともに、未知アーキア・バクテリアが比較的豊富に存在する地下環境試料を用いて、様々な基質により集積培養化に精力的に取り組んだ。さらに、未知アーキアが含まれている集積培養物が得られたことから、その環境ゲノム情報を獲得し、代謝機能の推定に取組んでいる。また純粋分離に挑戦しており、かなりの純度で未知アーキアを培養できてきていることから、今後、本アーキアの純粋分離を確実なものとし、ゲノム情報から推察された機能の検証や形態学的・生理生態学的機能を詳細に明らかにしたいと考えている。また、石炭などに多様に含まれているメトキシ化合物を用いることで、本化合物を分解する未知細菌とメタン生成するメタン生成アーキアからなる集積培養系を獲得した。本集積培養物から、1株純粋分離に成功し、本細菌株が少なくとも科レベルで新規な細菌であることを明らかにした。興味深いことに、本株は、単独ではメトキシ化合物を利用できないが、メタン生成アーキアと共生した時にはじめて同化合物を利用できる共生細菌であることが明らかとなった。メタン生成アーキアとの共生で同化合物を利用する共生細菌は世界初の発見である。現在、本細菌とメタン生成アーキアとの共生系の解析を鋭意進めている。
2: おおむね順調に進展している
上述のように、本年度の研究推進により、陸域地下圏環境に生息する未知アーキアとその周辺微生物群のゲノム情報の再構築と代謝機能の解明を着実に進めるとともに、未知アーキアを含む集積培養系の獲得ならびに系統的に新規性の高い地下微生物の純粋分離に成功し、本微生物がメタン生成アーキアとの共生時において地下の根源有機物の一つを基質として利用することを世界に先駆けて明らかにするなど重要な成果を挙げたことから、現在までの達成度を「概ね順調に進展している」と判断した。
今後も引き続き、深部地下圏に生息する未知アーキア・バクテリアの多様性と分布を解析するとともに、集積培養に成功しているものについては、鋭意、環境ゲノム情報解析を通じてそのゲノム獲得と代謝機能の推定を進める。また集積培養系から、標的となる未知アーキア・バクテリアの純粋分離をさらにすすめ、その生理生態機能の解明を通じて、陸域地下圏環境における炭素循環プロセスやメタン生成機構の包括的な理解に資する基盤的知見を集積したいと考えている。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件、 招待講演 3件) 備考 (1件)
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