遺伝子の発現状態は、何を指標にすればどれくらい予測できるだろうか?近年の理論および実験の先行研究から、環境変化による発現変化量(環境応答量)と環境変化前のノイズによる確率的な発現変動(ゆらぎ)の大きさが正の相関関係をもつことが示唆されている。本研究の目的は、遺伝子の発現状態を予測する新たな手法を築くため、予測される正の相関関係が、より多くの遺伝子で一般的に成り立つかを調べることである。そのために、大腸菌の多数の遺伝子に着目し、様々な環境条件下で発現量とそのゆらぎを計測する。そして環境変化前のゆらぎから環境応答量をどの程度説明できるか検証する。さらに、予測精度が遺伝子のどのような特徴によって左右されるかを明らかとし、予測精度を今後改善するための指針を提示する。本研究では、大腸菌の各遺伝子の発現量が黄色蛍光タンパク質YFPによって標識された大腸菌ライブラリーを様々な環境条件で培養し、蛍光顕微鏡観察およびフローサイトメトリーによって各遺伝子の発現量を個体レベルで計測し、環境変化前後でのゆらぎ(分散)と環境応答量(平均変化量)が遺伝子ごとに対応づけられた実験データを取得する。 本年度は、これまでに改良を施した多数の大腸菌ライブラリーについて、フローサイトメトリーと蛍光顕微鏡観察によって標識遺伝子の発現量の計測を行い、昨年度に得た計測結果の再現性を確認した。 遺伝子ごとの平均発現量と個体間の分散の二点について、フローサイトメトリーと蛍光顕微鏡の二つの計測手法の間で高い正相関が得られることが再現良く確認できた。また、このライブラリを多様な培養条件下で培養し、フローサイトメトリーによって遺伝子発現量の反復計測を行った。その結果、遺伝子発現量のゆらぎと、遺伝子発現量の環境変動量のいずれについても必要な反復数の実験データを得ることができ、予測された両者の正相関を実証できた。
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