研究課題/領域番号 |
18H02428
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
谷内江 望 東京大学, 先端科学技術研究センター, 准教授 (60636801)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | インタラクトーム / DNAバーコード / 次世代シークエンシング |
研究実績の概要 |
がん等のヒトの疾患が単一の遺伝子や単純なパスウェイの損傷として説明できる例は少なく、その殆どは複雑な細胞内ネットワーク全体の不全として考えなくてはならない。近年、網羅的なタンパク質間の相互作用 (インタラクトーム) が計測可能になり、医学分野においては、患者個人のゲノム変異情報をリファレンスインタラクトームにマッピングすることで病態予測や予後予測の精度が向上することが示されている。また疾患関連変異が他のゲノム変異に比べて有意に多くのタンパク質間相互作用を阻害することも知られている。したがって、パーソナルゲノム情報に加えてヒト組織から固有のインタラクトームを計測することができれば、より高精度な病態予測が可能になると考えられるが、現在までにそのようなテクノロジーはない。本研究では申請者が過去に開発した高速インタラクトーム同定技術BFG-Y2H法を発展させることによってパーソナルイン タラクトーム技術を確立することを目指している。水-油系エマルジョンとDNAバーコード化ビーズを用いてライブラリー作成時における様々なバイアスが最小化されたバーコード化パーソナルORFライブラリー合成手法の開発を進め、2018年度はHEK293Ta細胞において高発現していることが知られている多様なORFについて共通のバーコード化DNAプライマーによって完全長cDNAの逆転写ライブラリーを構築できることを実証した。また他のインタラクトーム同定手法であるDHFR-PCA法を応用した新たな高速インタラクトーム同定手法としてのBFG-PCA法の開発を進め、これが約50 ORF群の間でのインタラクトームを効率良く計測できる技術であることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本手法では、遺伝子毎に特異的なDNAバーコードカセットと連結した逆転写プライマーと増幅用プライマーがビオチン-アビジン結合によって表面に固相化されたマイクロビーズが解析スペース内の対象遺伝子全てについて準備される。本ビーズ表面上では特異的なDNAバーコードカセットと連結したcDNAを合成することができる。ヒト組織からトータルRNAを得て、多種類のビーズ群と混合し、ビーズのみを精製することによって、ビーズ表面に特異的なRNA産物が捕捉されたものを得る。1st strand cDNAを合成後、これをエマルジョン内にPCR試薬と共にカプセル化してPCR反応を行い、PCR競合やプライマー間の干渉がない状態でそれぞれのORFをプール状で一斉に増幅する。各ORFはそれぞれ設計されたDNAバーコードカセットと特異的に連結し、回収されたバーコード化パーソナルORFプールは一斉にGateway BP反応によってGateway Entryベクターにクローニングされ、これを用いたインタラクトーム計測を行う。2018年度は多様なORFについて共通のバーコード化DNAプライマーによる完全長cDNA逆転写手法を樹立したが、最適なプロトコルを得るまでの過程で多くの検討が必要となり、プール化したプライマーから一斉にパーソナルORFプールを得る部分まで実証することができなかった。一方でこの部分の安定したDNAプライマーのデザインやプロトコルについて得ることができたため、以降のプロセスの開発について来年度以降一定の成果を得られる見通しがついた。
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今後の研究の推進方策 |
計画に沿って以下の部分について開発を進める: 1) バーコード化ビーズ表面上での特異的なRNA産物の捕捉プロトコルの開発 2) バーコード化ビーズ上での1st strand cDNA 3) エマルジョン内おける完全長cDNAの増幅手法の開発 4) バーコード化パーソナルORFプールによるBFG-Y2Hライブラリーの作成 5) HEK293Ta細胞から得たトータルRNAをパーソナルトータルRNAとして模したものからのインタラクトーム計測
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