がんなどのヒトの疾患が単一の遺伝子や単純なパスウェイの不全によって説明できることは少なく、そのほとんどは複雑な生体分子ネットワークの不全として考えなくてはならない。近年網羅的なタンパク質間の相互作用(インタラクトーム)計測が可能になり、医学分野においては患者個人のゲノム変異情報をリファレンスヒトインタラクトーム上にマッピングしたデータマイニングによってその予後予測の精度向上などが認められている。また疾患変異が他のゲノム変異に比べて有意にタンパク質間相互作用を阻害することも知られている。したがって、任意のサンプルから効率的にそのパーソナルインタラクトーム情報を計測する技術があれば、より高精度な病態予測が可能となるがこれまでにそのような技術はない。最終年度は前年度までに樹立した任意のサンプルからORFeomeをバーコード化して合成するプロトコルの精緻化を進めたが、コロナ禍における研究活動の停止も影響し、これを用いて実際にバーコード化ライブラリーを作製し、インタラクトームを計測するという実験には至ることができなかった(研究期間終了後の課題となる)。一方で、BFG-Y2H法に加えて、Protein Complementation Assay法を基盤としたBFG-PCA法の開発を進め、これを角膜孔複合体を形成するタンパク質間相互作用、プロテアソーム複合体を形成するタンパク質間相互作用を異なるサンプルについて効率的に計測できることを示した。またこれが、BFG-Y2H法に比べて細胞内に局在する様々な構造をより効率的に捉えることのできることを示した。
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