研究実績の概要 |
FACSを用いて,マウスにおける胸腺T細胞のシグナル伝達データを得た.胸腺T細胞を刺激し,t=0(刺激直後),1, 2.5, 5, 10, 20(分)の各時刻で,全7分子種CD3e, pAKT, pPlcg, pERK, pmTOR, pZAP70, pS6に対して,CD3eは相対量,CD3e以外は相対的リン酸化強度を測定した.CD3eは他の分子種の上流に相当し,入力とみなすことができる.ひとつの条件で10000個程度の細胞数を測定できるが,分子種によってはFACSの測定の始めの段階で測定値にアーチファクトが発生することがわかったため,分子種間の相互情報量の値が安定するようにデータ処理を行う条件を検討した.その結果,FACS測定の後半約6000個の細胞数のみをデータ解析に用いることでアーチファクトの影響を取り除けることがわかった. シグナル伝達データを解析したところ,各分子種の平均時系列は比較的似通っていた.しかし,各分子種間の相互情報量を評価した結果,pS6は他の分子種との相互情報量が他の分子種間の相互情報量と比べて20分において上昇するという特徴がみられた. シグナル伝達経路における情報伝達の経路の違いを調べるため,各時刻における通信路に相当する条件付き分布間の距離を定義し,t-SNEを応用することで,入力となるCD3eから他の分子種への各時刻での情報伝達の経路の違いを2次元マップに埋め込んで可視化した.その結果,pS6はt=20分だけでなく,全時刻において情報伝達が他の分子種と異なるような経路であることがわかった.
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