研究課題/領域番号 |
18H02434
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
田中 耕三 東北大学, 加齢医学研究所, 教授 (00304452)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 癌 / 細胞・組織 / 染色体 |
研究実績の概要 |
本研究では、不明な点が多いがん細胞の染色体不安定性の要因として、申請者らが独自に見出した紡錘体中央での染色体反復運動(オシレーション)の低下に着目し、その原因およびこれが染色体不安定性をひき起こす機構について明らかにすることを目的とする。染色体と紡錘体微小管の結合に関与するキネトコア分子Hec1のAurora Aキナーゼによるリン酸化と、染色体オシレーションが相互に依存するという知見に基づき、平成30年度には以下のような成果を得た。 1. Aurora A阻害剤を用いて得られた結果をジーンターゲティングによって検証するため、Aurora A にauxin添加によって分解誘導可能なAID(auxin-inducible degron)タグを付加したRPE-1細胞を作成した。 2. Hec1はN端に多数のリン酸化部位を有するため、すでに調べた55番目のセリンのリン酸化に加えて、8番目・15番目・44番目のセリンのリン酸化についても検討を行った。その結果、分裂中期でのリン酸化に対するAurora AとAurora Bの寄与は、リン酸化部位によって異なることがわかった。 3. 紡錘体上でのAurora Aの染色体オシレーションへの関与を調べるために、Aurora Aの紡錘体への局在に関与するTPX2と結合できないAurora A変異体を作成し、AID-Aurora Aを発現する細胞に発現させた。 4. Aurora A阻害により、染色体オシレーションを抑制すると、染色体不安定性の指標であるメロテリック結合の頻度・異数体や微小核の出現頻度が上昇することがわかった。 5. 染色体オシレーションとHec1のリン酸化や動原体と微小管の誤った結合との関連をシミュレートする数学モデルを構築し、染色体オシレーションによる動原体と微小管の誤った結合の修正を再現することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していた全ての研究項目について、予定通りの成果を得ることができた。 まず、1. Aurora Aのコンディショナルノックアウト細胞での検討については、AID-Aurora Aを発現するRPE-1細胞を樹立することに成功した。 次に、2. Aurora AによるHec1のリン酸化部位の同定については、55番目のセリンのリン酸化に加えて、8番目・15番目・44番目のセリンのリン酸化についても検討を行い、Aurora A,・Aurora Bキナーゼの寄与がリン酸化部位によって異なるという興味深い結果を得た。 3. 紡錘体上でのAurora A活性の分布の検討については、Aurora Aの紡錘体への局在に関与するTPX2と結合できないAurora A変異体を作成し、AID-Aurora Aを発現する細胞に発現させることができた。 4. 染色体オシレーションと染色体不安定性との関連の解明については、Aurora A阻害により染色体オシレーションを抑制すると、染色体不安定性の指標であるメロテリック結合の頻度・異数体や微小核の出現頻度が上昇することがわかった。 5. 染色体オシレーションの数学的モデルの構築については、染色体オシレーションとHec1のリン酸化や動原体と微小管の誤った結合との関連をシミュレートする数学モデルを構築し、染色体オシレーションによる動原体と微小管の誤った結合の修正を再現することに成功した。以上より、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度の研究成果に基づき、今年度は以下のように研究を推進する。 1. Aurora Aのコンディショナルノックアウト細胞での検討:平成30年度に樹立した、Aurora A にauxin添加によって分解誘導可能なAID(auxin-inducible degron)タグを付加したRPE-1細胞で、染色体オシレーションおよびHec1のリン酸化を調べる。Aurora Bについても同様の実験を行う。 2. Aurora AによるHec1のリン酸化部位の同定:これまでに検討した8番目・15番目・44番目・55番目のセリンのリン酸化に加え、本年度は、最近オシレーションとの関連が報告された69番目のセリンのリン酸化について検討を行う。さらにこれらのリン酸化部位をアラニンに置換したHec1変異体を、内在性のHec1をノックダウンしたRPE-1細胞で発現させ、オシレーションに重要なリン酸化部位を特定する。 3. 紡錘体上でのAurora A活性の分布の検討:TPX2と結合できないために紡錘体に局在できないAurora A変異体を、AID-Aurora Aを発現する細胞に発現させ、内在性のAurora Aを分解した際にHec1のリン酸化およびオシレーションが回復するかどうかを調べる。 4. 染色体オシレーションと染色体不安定性との関連の解明:染色体オシレーションを、モーター分子MCAKやKIF18Aの活性を制御することにより人為的に増大・減弱させた状況で、メロテリック結合の頻度・異数体や微小核の出現頻度によって染色体不安定性を評価する。 5. 染色体オシレーションの数学的モデルの構築:平成30年度に、構築した数学的モデルを発展させ、がん細胞での染色体オシレーション減弱を再現し、モデルから得られる予測を実験で検証する。
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