研究実績の概要 |
本研究では、不明な点が多いがん細胞の染色体不安定性の要因として、申請者らが独自に見出した紡錘体中央での染色体反復運動(オシレーション)の低下に着目し、その原因およびこれが染色体不安定性をひき起こす機構について明らかにすることを目的とする。染色体と紡錘体微小管の結合に関与するキネトコア分子Hec1のAurora Aキナーゼによるリン酸化と、染色体オシレーションが相互に依存するという知見に基づき、令和2年度には以下のような成果を得た。 1. Aurora A, Bのコンディショナルノックアウト細胞での検討:Aurora A, B にAIDタグを付加したRPE-1細胞で、Aurora A, Bの発現を抑制したところ、Aurora Aの発現抑制によりHec1のリン酸化と染色体オシレーションの低下が見られた一方、Aurora Bの発現抑制ではこれらの変化は見られなかった。 2. Aurora AによるHec1のリン酸化部位の同定:これまでに55番目のセリンのリン酸化について検討したのと同様に、69番目のセリンのリン酸化についても正常細胞株とがん細胞株での分裂中期におけるリン酸化レベルを比較したところ、大きな差は見られなかった。 3. Hec1のリン酸化と染色体オシレーションに寄与するAuorora Aの局在の検討:Aurora Aのセントロメアへの局在に関与するINCENPを発現抑制したところ、69番目のセリンのリン酸化が低下した一方、55番目のセリンのリン酸化には変化が見られなかった。 4. 染色体オシレーションと染色体不安定性との関連の解明:染色体オシレーションに関するAurora A, TPX2の発現量や局在を、正常細胞株とがん細胞株で比較したが、明らかな差は見られなかった。 5. これらの研究成果を論文としてまとめ、Journal of Cell Biology誌に発表した。
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