研究課題/領域番号 |
18H02436
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
吉村 成弘 京都大学, 生命科学研究科, 准教授 (90346106)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | エンドサイトーシス / 細胞骨格 / 原子間力顕微鏡 / メカノバイオロジー / 細胞膜 |
研究実績の概要 |
本年度は、研究計画通り、研究項目Ⅰ(クラスリン依存的エンドサイトーシスにおける細胞膜と細胞骨格の動的競争関係の解明)に取り組み、以下の成果を得た。 1. これまでに、高速原子間力顕微鏡と共焦点レーザ顕微鏡との相関ライブイメージングにより、クラスリンエンドサイトーシスの閉口過程にアクチンが関与していることを示す結果を得ている。本年度はアクチンの役割を明らかにするために、関与するタンパク質の同定と、モデル構築を目指して研究を遂行した。当初の計画通り、阻害剤やRNA干渉を用いて関与する分子の同定に取り組んだところ、Arp2/3の関与を示す結果が得られたのに対して、RhoAやRac1の関与は否定された。また、欧州分子生物学研究所のRies博士と共同研究を開始し、エンドサイトーシスの初期過程での関与が示唆されているBARドメインタンパク質(FcOH2)の機能解析を開始した。 2.これまで10秒であったフレームレートを2秒に上げて観察する事に成功し、閉口過程における細胞膜の形態変化をより詳細に解析することに成功した。その結果、これまでまれにしか見られなかった小さい開口構造(開口径~30nm)を多くのピットで観察することができ、その持続時間が数秒から数十秒であることを明らかにした。これにより、クラスリンの集積が完了して大きな開口(U型)構造が形成された後(50-100秒)、小胞が切り取られるまでの間に、Ω型の小さい開口構造が数秒間だけ存在することを示した。これは、U型からΩ型への変換に大きなエネルギーバリアが存在し、そのバリアを超えるのにアクチンが関与していることを示唆するものである。その力学的背景を明らかにするために、カリフォルニア州立大学サンディエゴ校のPadmini博士との共同研究を開始し、そのモデル構築を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の計画は概ね順調に進展している。特に、高速原子間力顕微鏡の時間分解能の向上により、これまでまれにしか見られなかった小さい開口径ピットがクラスリンエンドサイトーシスの閉口過程に存在することを確認できたことは非常に大きな進歩である。これにより、成長期、安定期、閉口期を通して、一連の細胞膜変形過程をクリアにすることができた。成長期には、クラスリンの集積・重合が進行し、これに伴い、開口径(くぼみの径)が増大する。やがてクラスリンの集積が停止して安定期に入ると、大きな開口径(100-120 nm)を持ったU型の構造がしばらく(50-100秒)維持される。この期間に、ダイナミンなどのタンパク質の集積も始まる。やがて、U型の構造はΩ型に移行し、開口径の小さい(~30 nm)のピットが形成されるが、この持続時間は短く(数秒~20秒)、すぐに小胞が切り取られて穴は閉じる(閉口期)。これらの一連の過程における細胞膜の形態変化を可視化した例はこれまでになく、エンドサイトーシスの進行の分子メカニズムを理解する上で大きな一歩であるといえる。また、U型からΩ型への変換過程に大きなエネルギーバリアが存在することが示唆されるが、この過程の促進にアクチンなどの細胞骨格が関与している可能性が高い。細胞膜変形のモデル構築に関しては、当初3Dの力学モデルを計画していたが、現在、二次元のモデル構築を行っている。これには、クラスリン依存的エンドサイトーシスにおける細胞膜の形状に関しては、対称性、等方性が見られたためである。カリフォルニア州立大学サンディエゴ校のPadmini博士と共同研究を開始し、二次元モデルを用いて、U型からΩ型への変形過程におけるアクチンの関与を解明するための計算を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は、研究項目Ⅰを引き続き遂行するとともに、計画通り研究項目Ⅱにも着手する。研究項目Ⅰでは、2018年度に開始した閉口過程における細胞膜変形に関するモデル構築を継続するとともに、RNA干渉等を用いてアクチン関連分子の同定とその活性化の分子機構を明らかにする。また、Ries博士との共同研究により、成長過程におけるタンパク質の関与と膜変形との関係性を明らかにする共同研究を継続する。研究項目Ⅱ(各種エンドサイトーシス経路による細胞膜張力調節機構の解明)では、計画通り、PDMSチャンバと伸展装置を高速原子間力顕微鏡に組み込み、細胞張力を変化させたときのエンドサイトーシスの頻度と分布を明らかにする。これまでの予備実験では、膜張力を一過的に増加させるとエンドサイトーシスの進行が抑制される事を示唆する結果が得られている。ここでは、さらに詳細な解析を行い、エンドサイトーシスのどのステップ(成長期、安定期、閉口期)で「張力依存性」が見られるかを明らかにする。特に、膜張力変化によるアクチンのダイナミクスの変化と膜変形との関係性を、相関イメージング等を用いて解明する。また、膜張力やずり応力との関係がこれまでに示唆されてきた他のエンドサイトーシス経路(caveola, CLIC, FEME等)に関しても同様の解析をおこない、各経路と膜張力との関係を明らかにする。
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