課題Ⅱ:前年度に明らかにしたCIP4の機能をさらに詳細に解析することで以下の成果を得た。クラスリン被膜ピット周辺への集積に必要な中央部の非構造領域の構造を、そのアミノ酸配列をもとに解析したところ、中央部にαヘリクス2本から形成されるHR1ドメイン、そのN末端側に正電荷をもつ非構造領域、C末端側には負電荷を持つ非構造領域を持つことが分かった。この断片を大腸菌で発現・精製し、in vitro相分離アッセイを行ったところ、非常に強い自己集合(液ー液相分離)を引き起こすことが分かった。変異体等を用いた解析により、相分離には分子内における正・負電荷の偏在、およびHR1の二量化が重要な役割を果たしていることを明らかにした。さらに、HR1二量体が活性化型Cdc42と相互作用すること、相互作用はCdc42とN-WASPとの相互作用を阻害しないこと、を明らかにした。N-WASPはArp2/3複合体を介して、アクチン重合を促進することから、この成果はCIP4がクラスリンピット周辺でアクチン重合を促進するメカニズムとして重要な発見である。またこれは、エンドサイトーシスの膜張力依存性を説明する仕組みになり得るものとして重要な知見である。 課題Ⅲ:カベオラには膜張力に応じて細胞膜の面積を調節する緩衝作用があることが報告されていたが、その仕組みについては解明されていない。カベオラを構成する2つの重要なタンパク質caveolin1、cavin1に蛍光タンパク質を融合させて培養細胞に発現させ、細胞運動時のカベオラを数と頻度を蛍光顕微鏡及び高速原子間力顕微鏡を用いて定量的にイメージングする実験系を構築した。COS7細胞では、カベオラは30-50nm程度の小さい開口部を持ち、クラスリン被覆ピットよりも長い持続時間(数分オーダー)と小さい拡散係数を持つ。細胞の進行方向に対して後方部位での観察には成功したが、前方部位では成功しておらず、観察条件等の最適化に取り組んでいる。
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