研究課題
上皮組織は、異なる環境を分けるバリアとして働く。このバリア機能はタイトジャンクション( TJ )と呼ばれる細胞間接着装置によって担われる。TJの構成因子であるclaudinファミリーのノックアウトマウスは、胎生致死や脱水、難聴などの病態を示すことから、TJは生体内におけるバリア機能に必須の役割を果たしているといえる。一方で、TJがどのようにして形成されるかについては未だにほとんど不明である。本研究の準備段階において我々は、上皮・中皮組織由来の分泌液中にTJ形成を誘導する液性因子が存在することを見出し、新しいペプチドを同定した。本研究では、このTJ形成ペプチドを軸にした上皮組織のバリアシステム形成の解明を目指し、研究を進めている。今年度は、本ペプチドがどのようにしてタイトジャンクションを形成するのか、すなわち作用点・作用メカニズムを解明に取り組んだ。ビオチン標識ペプチドを用いたリポソームとの結合実験、また、抗ペプチド抗体の細胞質マイクロインジェクション実験を行った。その結果、細胞膜に挿さり細胞質のZOタンパク質に作用していると考えられる結果が得られた。また、腸炎モデルマウスに対し本ペプチドが奏功するか検証を行った。マウスにDSSを飲用させ潰瘍性大腸炎モデルを作成し、病態改善が見られるか検討を行った。腸組織切片による組織学的解析、および蛍光標識デキストランを用いたバリア機能の評価を行ったところ、本ペプチドの投与により潰瘍性大腸炎の症状が抑えられることを見出した。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画に従い、タイトジャンクション形成機構の解明が進んでいる。また、本研究を進める過程において、いくつかの興味深い現象を見出し、新たな知見が得られてきている。
我々が同定した生理活性ペプチドが、どのようにしてタイトジャンクションを形成誘導するのかという点について、液-液相分離に着目し、さらなるメカニズムの解明を進める。また、腸炎以外の炎症性疾患に対して本ペプチドが機能するかを検証する。さらに、本ペプチドの機能阻害を行った際の影響を評価する。
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Journal of Biological Chemistry
巻: 295(13) ページ: 4289-4302
10.1074/jbc.RA119.010491