本研究課題では、「1. Hippo経路が免疫系を制御する分子メカニズムの解明」、「2. Hippo経路と免疫系の相互作用が織りなす生命現象の解明」、「3. Hippo経路を標的とした治療法の開発」の項目に分けて研究を推進している。 最終年度である本年度の研究では、1.に関して、Hippo細胞内シグナル伝達経路が細胞内小胞輸送を制御し、細胞外小胞への核酸の集積を制御することを見出した。また、免疫刺激性の細胞外小胞にはRNAを中心とした核酸が多く含まれ、これが樹状細胞などの抗原提示細胞に取り込まれることによって宿主の核酸感知経路を刺激し、免疫応答が誘導されることが分かった。2.に関しては、Hippo経路の変化によって、細胞を取り巻く微小環境に存在する免疫細胞の種類と質が大きく変化することが、免疫細胞の包括的な解析により明らかになった。3.に関しては、Hippo経路の活性を鋭敏に反映するレポーターを構築し、Hippo経路を阻害する化合物のスクリーニングを試みたが、既存レポーターに比べてより鋭敏な性能を持つ実験系の構築が困難であった。そのため、昨年度までに得られていた阻害剤を使ってマウスがんモデルでの治療効果を確認した。 これらの結果からHippo経路が免疫系を制御するメカニズムとその生物学的意義の一端が明らかとなり、Hippo経路と免疫系のクロストークを今後さらに探究していくことで、多細胞生物におけるHippo経路の役割の解明がより進んでいくものと考えられる。
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