研究課題/領域番号 |
18H02442
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
今本 尚子 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 主任研究員 (20202145)
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研究分担者 |
小瀬 真吾 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 専任研究員 (90333278)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 核ー細胞質間輸送 / 熱ショックタンパク質 / タンパク質の恒常性 / Hikeshi / 転写因子HSF1 |
研究実績の概要 |
Hikeshiの機能を損なうと、様々は表現系が見られる。我々は、Hikeshiは、熱ストレスに依存したHsp70の核内輸送運搬体として同定したが、様々な表現系が見られるため、Hikeshiの輸送基質がHsp70以外にも存する可能性も検討した。しかし、Hikeshiの構造解析などの結果を合わせて考えると、Hikeshiの輸送基質はHsp70またはHsc70を含めたそのファミリー分子だけだと、今は考えている。言い換えれば、Hikeshiの機能欠損で見られる様々な表現系は、全て、Hikeshiの機能喪失に伴ったHsp70の核内機能の喪失ではないかと考えている。Hikeshiの機能解析を通して、未だ明らかになっていないHsp70の核内機能を明らかにしていきたい。 CRSPR/Cas9でHikeshi遺伝子をノックアウトしたHeLa細胞を用いて、RNA seqによる遺伝子発現解析を行うと、Hikeshiをノックアウトするだけで、正常時で、HSF1のターゲット遺伝子の多くが緩やかに発現上昇することがわかってきた。HSF1は熱ストレス時に活性化して、そのターゲット遺伝子の発現を上昇させるが、ストレスを解除するとターゲット遺伝子の発現を低下させる。Hikeshiをノックアウトすると、ストレスを解除してもHSF1ターゲット遺伝子の発現は低下しない。つまり、Hikeshiをノックアウトすると、HSF1が活性化、あるいは活性抑制が阻害されると考えられる。HSF1はタンパク恒常性を司るマスター転写因子で、その活性制御の破綻は生体に広汎な影響を及ぼすと考える。本年度は、HikeshiをノックアウトするとHSF1の活性が抑制されることを細胞レベルで確認するとともに、HSF1の活性制御に核内Hsp70の機能が必須であることを証明していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Heat shock elementを結合したリシフェラーゼ遺伝子を細胞に導入し、発現したルシフェラーゼの活性でHSF1の活性を測定した。Hikeshiをノックアウトすると、ルシフェラーゼ活性が上昇するが、このとき、同時にHikeshi遺伝子を導入すると、導入したHikeshi遺伝子の量に応じてルシフェラーゼ活性が低下する。このことから、Hikeshiの機能がHSF1転写活性抑制に必要であると確認された。 HSF1が活性化すると、Hsp70などのHSF1ターゲット遺伝子の影響で、細胞のタンパク質凝集体が消失・形成阻害されることが知られている。野生型HeLa細胞と、HikeshiノックアウトHeLa細胞のそれぞれに、長さの異なるポリグルタミン酸タンパク質(polyQ19、polyQ57、polyQ81、polyQ97)を発現させ、ポリグルタミン酸凝集形成を定量した。その結果、polyQ81では、Hikeshiノックアウト細胞の凝集体形成が野生型細胞に比べておよそ50%(導入後24時間)、75%(導入後48時間)減少し、polyQ97では、およそ70%(導入後24時間)、60%(導入後48時間、導入後72時間)減少した。これらの定量結果から、HikeshiノックアウトでHSF1が活性化することが確認された。 HikeshiノックアウトによるHSF1の活性亢進が、核内Hsp70の喪失によるのかを調べた。SV40T抗原NLSを付加したHsp70を発現させると、RNAseqデータから、Hikeshiノックアウト細胞では、HSF1ターゲット遺伝子の発現が野生型細胞の半分程度に低下した。また、ルシフフェラーゼアッセイの解析では、NLSを付加したHsp70を細胞に導入するとルシフェラーゼ活性の低下が見られた。これらの結果から、核内Hsp70がHSF1の活性抑制に必要であることがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
HikeshiノックアウトでHSF1の活性が亢進されることを、ルシフェラーゼリポーターアッセイやpolyQ凝集阻害アッセイで確認した。このHikeshiノックアウトによるHSF1の活性亢進は、SV40T抗原のNLS(核局在化シグナル)を負荷したHsp70を細胞に導入すると消える。そのため、核内Hsp70の作用でHSF1の活性が亢進が抑えられることを初めて確認することができた。今後は、核内Hsp70の作用でHSF1が活性抑制されるメカニズムを明らかにしていく。可能性として2つ考えられる。一つは、核内Hsp70が核内でHSF1と結合することによって、HSF1の活性が抑制される可能性(直接的な作用)、もう一つは、Hsp70の核内喪失によって核内プロテオスタシスが崩れるためにHSF1の活性が亢進される可能性(関節的な作用)である。HSF1とHsp70の核内結合の可視化を試みるとともに、Hikeshiノックアウトで、核内のプロテオスタシスが上昇する可能性を調べる。
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