研究課題
(1)下オリーブ核ニューロンの分化機構の解析私達はこれまで、プロニューラル因子Ptf1aとホメオボックス転写因子Gsx2の変異体で、下オリーブ核ニューロンが減少・消失することを見出した。ptf1a変異体ではgsx2の発現が変化せずgsx2変異体ではptf1aの発現が変化しないこと、ptf1a変異体ではアポトーシスを誘導するがgsx2変異体では誘導しないことから、Ptf1aとGsx2は独立した機能をもって下オリーブ核ニューロン分化を制御していると考えられた。また、Fgf3/8aとレチノイン酸のシグナルがそれぞれ負と正にgsx2の発現を制御しており、mafbaとhox遺伝子がそれぞれFgfとレチノイン酸シグナルの下流でgsx2の発現を制御することで、下オリーブ核ニューロンの分化に関わっていることを見出した。これらの結果は、Gsx2が前後軸の位置情報シグナルを受け、Ptf1a発現細胞から下オリーブ核ニューロンへの運命決定に関与していることを示している(論文投稿リバイス中)。(2)プルキンエ細胞の分化機構の解析私達はこれまで、プルキンエ細胞に発現する転写因子Foxp1bとFoxp4のダブル変異体でプルキンエ細胞が大幅に減少し、同じくプルキンエ細胞に発現する転写共抑制因子Skor1bとSkor2のダブル変異体ではプルキンエ細胞が消失し代わりに顆粒細胞が増加することを見出した。これらの結果から、Foxp1b/4はプルキンエ細胞分化遺伝子を正に制御し、Skor1b/2は顆粒細胞分化遺伝子の発現を抑制している可能性が示唆された。Foxpタンパク質はDNAに直接結合するが、Skorタンパク質は他の転写因子を介してDNAに結合すると考えられている。私達は、Skor1b/2に結合する転写因子の候補として、プルキンエ細胞に発現するLhxファミリータンパク質Lhx1a/1b/5を見出した。
2: おおむね順調に進展している
下オリーブ核ニューロンの分化機構に関しては詳細なメカニズムが分かり、論文の形にし投稿しリバイス中である。下オリーブ核ニューロンの分化機構に重要な役割を持つgsx2の発現機構を検討するため、エンハンサー解析を始めており、研究は順調に進展している。一方、プルキンエ細胞の分化機構の解析に関しては、転写共抑制因子Skor1b/2のパートナー候補が見つかり、メカニズムに迫りつつある。Skor1b/2および転写因子Foxp1b/4の標的遺伝子を、クロマチン免疫沈降で解析するための準備も進んでいる。計画全体として、おおむね順調に進展していると判断できる。
(1)gsx2の発現制御機構の解析:マウスGsx2遺伝子の比較解析から、gsx2の下オリーブ核ニューロン前駆細胞での発現に関わるエンハンサー領域が推定出来ている。エンハンサーの変異体を作製し、トランスジェニックフィッシュを作製することで、発現に必要なDNA領域を決定し、そこに結合する転写因子を同定する。(2)foxp1b/4、skor1b/2の異所的発現による機能解析:これらの遺伝子を単独で、またはfoxpとskor遺伝子、skorとlhx遺伝子を組み合わせて、顆粒細胞系譜に発現し、顆粒細胞の分化を抑制しプルキンエ細胞への運命転化を起こせるかを検討する。(3)Skor1b/2の機能におけるLhxタンパク質の役割の解析:SkorとLhxの相互作用に関与するSkorとLhxタンパク質のドメインを同定する。同定したドメインを欠失した変異タンパク質の顆粒細胞の分化抑制機能を検討する。さらにlhx1a/1b/5のトリプル変異体を作製し表現型を解析するとともに、Lhx1a/1b/5非存在下でSkor1b/2の機能解析を行う。(4)Foxp1b/4、Skor1b/2、Gsx2の標的遺伝子の探索:ビオチンリガーゼ認識ペブチドを融合したFoxp1b/4、Skor1b/2をプルキンエ細胞に、同Gsx2を下オリーブ核ニューロン前駆細胞に発現させたトランスジェニックフィッシュの脳から、転写制御因子に結合したDNAを、ストレプトアビジンを用いて回収し配列を決定することで、これら転写制御因子の標的遺伝子を探索する。さらに、これら標的遺伝子の機能解析を行う。
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