研究実績の概要 |
受精のクライマックスである精子と卵子の融合メカニズムは、我々が同定した精子側のIZUMO1 (Inoue N et al., Nature 2005) と、そのレセプターである卵子側のJUNOの発見 (Bianchi E et al., Nature 2014)、さらにそれら複合体の細密立体構造の決定 (Ohto U et al., Nature 2016) により、一応の決着が付いたように思えた。しかしIZUMO1のセカンドレセプターを示唆するデータ (Inoue N et al., Nat Commun 2015) や、IZUMO1-JUNO制御系とは異なる卵子のCD9、精子のSPACA6ノックアウト配偶子が融合不全であることから、配偶子融合には、一瞬の反応のために複数のステップで、より確実で精巧な分子メカニズムが存在すると考えられる。 昨年度、我々は本研究の解析過程でマウスIZUMO1の新規選択的スプライシング産物 (IZUMO1_v2) を発見し、何らかの理由でIZUMO1が産生できない非常事態に陥ったとしても、IZUMO1_v2が受精の安全装置のような役割を果たしていることを発見した (Saito T et al., Sci Rep 2019)。本年度はこの解析をさらに発展させ、種々の遺伝子改変マウスを駆使して精子上のIZUMO1タンパク質の量を変動させ、そのタンパク質量と産仔数が相関関係にあることを明らかにした (Saito T et al., Int J Mol Sci 2019)。すなわち、IZUMO1タンパク質の量が減少すると受精の成功率も減少する。以上の結果から、IZUMO1タンパク質を指標として精子の「質」を評価することが可能であり、このことを利用して生殖補助医療の成功率を上昇させる可能性が示唆された。
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