研究実績の概要 |
受精のクライマックスである精子と卵子の融合メカニズムは、我々が同定した精子側のIZUMO1 (Inoue N et al., Nature 2005) と、そのレセプターである卵子側のJUNOの発見 (Bianchi E et al., Nature 2014)、さらにそれら複合体の細密立体構造の決定 (Ohto U et al., Nature 2016) により、一応の決着が付いたように思えた。しかしIZUMO1のセカンドレセプターを示唆するデータ (Inoue N et al., Nat Commun 2015) や、IZUMO1-JUNO制御系とは異なる卵子のCD9、精子のSPACA6ノックアウト配偶子が融合不全であることから、配偶子融合には、一瞬の反応のために複数のステップで、より確実で精巧な分子メカニズムが存在すると考えられる。 昨年度、我々は本研究の解析過程で、卵子側の融合因子CD9がJUNOなどのGPIアンカー型タンパク質を、染色体近傍にある卵子表層の皮質アクチンキャップに配置しないようにする「分子区画化」に積極的に関与していることを明らかにした。つまり正常な状態では、皮質アクチンキャップに存在しないはずの受精に関わる因子群が、CD9欠損卵子ではそこに漏れ出し、正しい区画化が行われない異常な状態に陥る。その結果、精子が染色体付近に侵入するリスクが増大する (Inoue, N et al., Development 2020)。この研究結果から、CD9によって制御されるタンパク質、例えばJUNOの卵子上の局在を調べることで女性不妊症の診断基準として有効であることが示唆された。
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