研究実績の概要 |
受精のクライマックスである配偶子融合メカニズムは、精子側のIZUMO1と卵子側のIZUMO1Rの発見、さらにそれら複合体の細密立体構造の決定により、一応の決着が付いたように思えた。しかしIZUMO1のセカンドレセプターを示唆するデータや、IZUMO1-JUNO制御系とは異なる分子群が存在することから、配偶子融合には、一瞬の反応のために複数のステップで、より確実で精巧な分子メカニズムが存在すると考えられる。 昨年度は、ハエや線虫で受精必須因子として機能するDCST1/2をマウスやヒトで同定することに成功した。DCST1/2欠損マウスは、ハエや線虫と同様に配偶子融合不全が原因で完全な雄性不妊になる。10億年に渡って保存されてきたDCST1/2分子が機能する詳細な分子メカニズムの解析を通して、今後の受精研究が大きく前進するものと考えられる (Inoue N et al., eLife 2021)。これに関連するアッセイ法の論文も発表した (Inoue N. Bio Protoc 2021)。 またTMEM95欠損雄マウスは完全な不妊症ではなく、低妊孕性になることを明らかにした。これは、2020年に発表された論文と背反する結果である。さらに配偶子融合必須因子である精子のSPACA6が、妊孕性のあるTMEM95やFIMP欠損雄マウスの成熟精子上から完全に消失することから、SPACA6は精子表面上のreceptor-ligand相互作用には機能していないことが分かった。これらの結果から、哺乳類の精子と卵子の相互作用に本質的に必要な因子群が浮き彫りになった (Inoue N et al., Biol Reprod 2022)。 またIZUMO3が、マウスの精子の先体形成において重要な働きがあることを明らかにした (Inoue N et al., Mol Reprod Dev 2021)。
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