研究課題
本研究では、蓋板細胞の頂端部に局在化するWntが細胞形態・骨格を変化させるしくみを明らかにすることを目的とする。神経管の発生過程において、蓋板細胞で発現するWntは背側神経管細胞の増殖と分化を制御するフェーズと、頂端部に局在化するWntが細胞形態・骨格を変化させるフェーズがあることがこれまでの代表者らの研究によりわかっていたが、その時間的な境界は明確ではなかった。そこで、蓋板細胞の発生を詳細に追跡することが必要と考え、Wnt1プロモーターにより時期依存的にcreリコンビナーゼを発現させ、蓋板細胞をtdTomatoによりマークした。その結果、蓋板細胞が形態変化を起こす以前においては、蓋板細胞に由来する子孫細胞が神経管の背側領域に広く分布することが明らかになるとともに、それら子孫細胞からの影響を排除するためにcreリコンビナーゼを発現させるタイミングを決めることができた。次に、canonical Wnt経路の中心的因子であるβ-cateninの恒常的活性化体を蓋板特異的Wnt cKOマウスに発現させたところ、蓋板細胞の形態異常が回復しなかったものの、神経管の形態そのものにも異常が現れた。そのため、蓋板細胞の変化がcanonical Wnt経路に依存するかどうかについては次年度以降慎重に解析を続けることとした。また、蓋板細胞で発現するアクチン骨格系制御因子Ezrinの機能を調べるためにノックダウンマウスを使用していたが、結果に不明確さがあったため、ノックアウトマウスを作成する決断をし、ゲノム編集による作成を開始した。さらに、Wntを細胞の頂端部に局在化させるしくみを理解するために、細胞外に分泌されたWntの高次構造と拡散性について検討した。その結果、Wntの高次構造には予想以上の多様性があることが示唆された。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の計画では、蓋板細胞におけるWntの局在化と細胞骨格系の関係を調べるために、Ezrinノックダウンマウスを用いる予定であったが、表現型の解釈の曖昧さをさけるために、ゲノム編集を用いたノックアウトマウスへと方向転換し、短期間に作成作業を進めることができた。また、本研究の申請時には予定していなかった蓋板細胞の系譜追跡や細胞外に分泌されたWntの構造多様性についても研究が進み、本研究をより多面的に進めるための基盤が形成できた。
Ezrinノックアウトマウスの解析を中心に、蓋板細胞におけるWntの局在化と細胞骨格系の関連性を検討して行く。また、Wntの構造多様性などの当初の研究計画においては予想していなかったことが示唆されていることから、その解明に向けた研究も進めていく。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 4件、 招待講演 1件)
Developmental Biology
巻: 146 ページ: pii: dev159343.
10.1242/dev.159343
Commun. Biol.
巻: 152 ページ: 21-31
10.1038/s42003-018-0172-x