2019年度には、昨年度に引き続き、細胞質型PHOTに黄色蛍光タンパク質(Citrine)を融合させた細胞質型PHOT-Citrineをアガートラップ法(アグロバクテリウムを用いた簡便なゼニゴケ形質転換法)によってphot変異体ゼニゴケに発現し、発現量の異なる複数のゼニゴケ系統を作出した。作出した系統を用いて、低温誘導性の葉緑体運動を解析し、細胞質型PHOTの機能を調査した。昨年の報告書に記載した代替実験として、植物細胞の低温感知部位を特定するために、細胞質型PHOTに細胞内局在化配列を付加する実験を行った。野生型PHOTは、細胞質、細胞膜、葉緑体周囲、ゴルジ体に局在すると考えられるが、PHOT-Citrineの観察結果(Sakata et al. 2019)から、ゴルジ体には常時局在していると考えにくい。そこで、細胞膜型PHOTおよび葉緑体周囲型PHOTのみの構築を行った。現在、細胞膜型PHOTおよび葉緑体周囲型PHOT をphot変異体ゼニゴケへ形質転換している。 また植物細胞の生理応答実験から、細胞膜および葉緑体周囲に局在するPHOTが低温を感知している可能性が明らかになり、本研究は植物細胞の低温感知部位の解明に向けて大きく進展した。ゼニゴケの無性芽細胞を用いた解析では、PHOTが細胞内を移動して葉緑体に局在することが判明しただけでなく、葉緑体への局在性が葉緑体運動の誘導と相関することがわかった(Sakata et al. 2019)。また偏光を用いた実験から、細胞膜(あるいは細胞膜近傍)に局在するPHOTが低温を感知して葉緑体の寒冷逃避反応を誘導することが強く示唆された(Fujii et al. 2020)。PHOTを介した植物細胞の低温感知は、葉緑体周囲および細胞膜(近傍)で行われている可能性が高い。
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