研究課題
生物の遺伝情報を担うDNAは細胞にとって長大な分子であり、生体内ではタンパク質によってきちんと折りたたまれなければならない。たとえば細胞核DNAは多様なヒストンによって折りたたまれて染色体を構築し、ミトコンドリアDNAはTfam/ABF2pと呼ばれるタンパク質によって折りたたまれて「核様体」を形成する。一方、光合成などを担う重要な細胞内小器官である葉緑体にも独自のDNAが存在するが、葉緑体DNAが折りたたまれて葉緑体核様体を形成する仕組みについてはよく分かっていなかった。今回、我々は緑藻クラミドモナスの葉緑体核様体の解析から、葉緑体DNAを折りたたむ「DNAクリップ」として、ミトコンドリア核様体の主要タンパク質Tfam/ABF2とそっくりなタンパク質を発見した。このタンパク質は、クラミドモナスの葉緑体から核様体の網羅的な解析から同定された。その構造は、2つのDNA結合部位(High mobility group (HMG) box)を連続して持つという点において、ミトコンドリアのTfam/ABF2pとそっくりであった。HBD1と名付けたこの遺伝子をゲノム編集によって破壊すると、葉緑体核様体が解けて小さくなった。さらにHBD1の組換えタンパク質のDNAへの結合様式を、高速原子間力顕微鏡とDNAオリガミをもちいて観察してみると、HBD1がDNAを折り曲げたり(bending)、2本のDNA鎖を架橋(bridging)したりする様子が捉えられた。HBD1は二つのDNA結合領域を用いて、DNAを折り曲げたり架橋したりする「DNAクリップ」として、葉緑体核様体の構築に貢献していることが示された(Takusagawa et al., PNAS in press)。
1: 当初の計画以上に進展している
葉緑体核様体のプロテオミクス解析を出発点として、これまで謎につつまれてきた葉緑体核様体の形態制御機構について解析をすすめてきたが、今回二つのDNA結合部位をもちいてDNAを折りたたむタンパク質HBD1を同定することに成功した。HBD1はタンデムに配置されたHMG box ドメインをもち、その構造は動物や菌類、原生生物においてミトコンドリア核様体の主要構成因子として報告されてきたAbf2p/Tfamと酷似していた。ゲノム編集技術をもちいてHBD1遺伝子を破壊すると葉緑体核様体が解け、さらにHBD1組換えタンパク質についてDNAオリガミ/原子間力顕微鏡による機能解析をおこなったところ、HBD1が二本のDNA鎖を架橋したり、一本のDNA鎖を折り曲げたりすることが明らかになり、これら架橋と屈曲によってHBD1が葉緑体ゲノムの折りたたみに貢献していることが明らかになった。この成果は、葉緑体核様体だけでなく、ミトコンドリア核様体構造についても知見を与えるものとして、当初の計画を超える成果となった。一方で、葉緑体DNA ligaseについても解析が進行中であり、この遺伝子が葉緑体核様体の細胞周期にともなう変化を司る重要因子であることが明らかになりつつある。
葉緑体核様体の解析から同定されたDNA ligaseの多面的な機能について解析する。とくに葉緑体核様体の細胞周期にリンクした分散/凝集について、それがHolliday junction resolvaseとDNA ligaseの協調的発現によるDNA supercoilの制御に基づいているという仮説について検証を進めたい。これまでに葉緑体DNA ligaseの生化学的な活性の確認、葉緑体核様体への局在、破壊株における葉緑体核様体の変化についてはデータが得られており、今後、葉緑体DNA ligase遺伝子の細胞周期にともなう発現様式、さらに葉緑体DNAのスーパーコイル状態についての解析をすすめていく。
すべて 2021 2020 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (9件) (うち査読あり 9件、 オープンアクセス 8件) 学会発表 (9件) (うち招待講演 5件) 備考 (1件)
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