研究課題
多細胞生物が正常に分化を開始するためには、確率論的な遺伝子発現の変化(揺らぎ)が生じることがきっかけとなる。抑制的ヒストン修飾の希釈は細胞周期という細胞集団が織りなす振動現象に依存する。この希釈が終わると、分化遺伝子が発現するという変調が起こる。ヒストン修飾の希釈にかかる時間を使って、遺伝子発現の時期を決めるメカニズムをエピジェネティックバイオタイマーと呼ぶ。このタイマーによる花の発生制御に注目して、網羅的な遺伝子発現とヒストン修飾の計測を行った。MADSbox転写因子であるAGによる遺伝子発現制御とポリコムタンパク質であるPRC2複合体の結合、H3K27me3の結合の3つの条件をもとに、バイオタイマーにより制御される遺伝子をゲノムワイドに同定した。その結果、既知のKNU遺伝子を含む10遺伝子を同定した。KNU遺伝子のうち、H3K27me3を持つ領域をタンデムにつなぎ、遺伝子改変による操作も行った。すると、その機能と一致して、H3K27me3の数と相関してKNU遺伝子の発現が減少し、その発現開始時期も遅れることを突き止めた。現在は、その発現制御に関与する細胞分裂を制御する遺伝子、PRC2の構成因子の貢献度を評価する実験を展開している。さらに、数理モデルにより、H3K27me3の数とKNU遺伝子の発現の関係を数理的に解析している。以上の研究結果をまとめ、令和2年度中に論文として公表する。
2: おおむね順調に進展している
発生ステージ特異的なRNA-seqとChIP-seqを用いて、鍵となる転写因子の結合状態、その下流の遺伝子発現、ヒストン修飾パターンの3つから、発生時間特異的にエピジェネティックバイオタイマーに制御される遺伝子をゲノムワイドに同定した。その結果、10遺伝子を同定することに成功した。レポーターを用いた空間情報も取得し、エピジェネティックバイオタイマーに制御される遺伝子の時間情報と空間情報の対応関係を明らかにした。
AGによるバイオタイマー制御の直接的な制御を調べるため、花発生の同調系を用いて、ChIPを行う。
すべて 2019
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