研究課題/領域番号 |
18H02467
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
西條 雄介 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 准教授 (50587764)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 植物免疫 / 栄養 / 微生物 / 共生 / 受容体 / 環境適応 |
研究実績の概要 |
植物がリン栄養環境情報に基づき免疫を調節し、植物成長促進(PGP)菌との共生と病原菌の防除を進める分子メカニズムの解明を進めており、主に以下の成果をあげた。 1)互いに近縁なColletotrichum属真菌であるCt共生菌・Ci病原菌は、ともに宿主植物シロイヌナズナの免疫受容体の重要補助タンパク質であるBAK1を選択的に除去して、根への感染を進めることを明らかにした。BAK1除去は、おそらく宿主免疫を抑える効果があると推察される。一方、Ct共生の成立(PGP機能の発現)には宿主BAK1の免疫制御以外の機能が逆に必要となり、Ct感染後期の植物地上部ではBAK1の蓄積が回復していることも示した。現在、宿主免疫に認識される同属真菌の構成成分の調製と、それを認識する宿主免疫受容体の探索を進めている。 2)ダメージ誘導性のPEPRシグナル系が、リン欠乏条件で活性化され、病原菌防除に寄与することを示した。その際、リン枯渇応答(PSR)を担う、既知の重要経路であるPHR1/PHL1経路とLPR1/LPR2経路のうち、後者がPEPRシグナル系の活性化に必要であること、さらにPEPRシグナル系の中で活性化されるシグナル制御ステップを明らかにした。ただし、リン欠乏条件においても病原菌に対しては抵抗性を保持する上で、PHR1/PHL1経路とLPR1/LPR2経路の両方が冗長的に貢献していることも突き止めた。さらに、リン十分土壌においても、phr1 phl1 lpr1 lpr2などPSR経路の多重欠損変異体は生育が阻害されることを示し、リン枯渇応答メカニズムが栄養十分条件においても根圏微生物制御に重要な役割を果たしていることが示唆された。 3)シロイヌナズナ野生種60アクセッションのPSRの各種応答やCt共生を解析することで、植物のリン枯渇環境適応戦略の解明に向けて重要となる種内多型情報やさらなる遺伝学的解析に有用な植物リソースを得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
Colletotrichum属真菌由来で植物免疫を刺激するエリシター構成成分の調製とそれらを認識する植物免疫受容体(特にBAK1依存的な受容体に着目)の探索は難航しているものの、その代わりに同属真菌が宿主植物のBAK1依存的な免疫機能を抑制・回避しながら一方でBAK1依存的な成長促進機能を利用して共生を成立させている実態が明らかになってきており、進歩性の高い成果が期待されるため。 次に、PSR経路による植物免疫受容体シグナル系の調節の実態や両者の分子リンクを探る過程で、phr1 phl1 lpr1 lpr2などPSR経路の多重欠損変異体がリン栄養が十分な条件であっても微生物の存在下では生育阻害を示すことから、想定していた以上にPSR経路が密接に植物免疫制御に関与している実態が明らかになってきたため。現在、栄養十分土壌においてこれらの多重変異体の免疫応答や微生物相互作用の詳細な解析を進めており、当該分野におけるブレークスルー的な成果が期待される。すなわち、これまで貧栄養状態の感知・適応に専ら働くとされてきた因子が植物免疫ひいては微生物共生の制御に働く実態を示し、さらに分子制御メカニズムに迫れる素地を築くことが出来たため。 さらに、PSRのシロイヌナズナ種内多型に関する解析も順調に進んでいるため。
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今後の研究の推進方策 |
1)Ct共生菌・Ci病原菌の感染を抑制する宿主免疫に重要なBAK1依存的な免疫受容体の同定に向けて、菌の構成成分の調製方法を再検討する。それに対する免疫応答を指標にシロイヌナズナ免疫関連変異体等における応答性を調べてアクセッションを用いた受容体同定の妥当性を探る(進捗次第では、下記2・3に重点を置く)。 2)PEPRなどの免疫受容体シグナル系への影響を指標に、一連のリン枯渇応答(PSR)関連変異体のPep1応答・Ct共生を解析して、どのPSR制御経路・因子がPEPRシグナル系あるいはCt/Ci相互作用のどのステップに作用するかを明らかにする。特に前年度で関与が示唆された因子に着目し、さらに詳細な機能解析を進める。また、リン十分土壌において、phr1 phl1 lpr1 lpr2などPSR経路の多重欠損変異体は生育不良を示す。PSR機能不全が免疫機能不全につながる可能性を検証するとともに、pepr1 pepr2変異体等も併せてRNA-seq解析を行い、PSR経路と免疫系の分子リンクの解明に役立てる。 3)シロイヌナズナのリン欠乏環境における植物成長及びCt共生効果の種内自然変異解析 シロイヌナズナ野生種約60アクセッションに関して、リン充分・枯渇条件において、植物成長やCt接種の共生効果について生重量を指標に捕捉するとともに代謝成分分析を行う。得られた多型に着目して遺伝学的解析を進めて、植物が栄養環境情報に応じて内生微生物との相互作用を調節する実態を捕捉する。上記で得られた、PSR-植物免疫の分子リンクや真菌感染制御に働くと期待される鍵因子候補については、機能解析に着手する。
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