フォトトロピンはBLUS1キナーゼのリン酸化を介して細胞膜H+-ATPaseを活性化し、気孔開口の駆動力を形成する。本年度はBLUS1を介した情報伝達について研究を行い、以下の成果を得た。BLUS1はN末端側にキナーゼドメインをもち、C末端側には機能未知の配列をもつ。このC末端領域の情報伝達における意義を明らかにするため、C末端から30アミノ酸ずつ欠損させた断片タンパク質をシロイヌナズナのblus1変異体に導入し、気孔応答を詳しく解析した。その結果、BLUS1のC末端領域には自身のキナーゼドメインを抑制する調節ドメインが存在すること、フォトトロピンによる調節ドメイン内のSer残基のリン酸化はこの抑制の解除に関与しBLUS1を活性化させることを明らかにした。さらに調節ドメインを欠損させるとBLUS1からのシグナルが常に伝達され細胞膜H+-ATPaseが恒常的に活性化されているにも関わらず、気孔は暗所では開口せず、光合成を誘導する赤色光を照射することで大きな開口が引き起こされる現象を見出した。解析の結果、この現象にはH+-ATPaseの活性化に加え、光合成を介した葉内CO2濃度の低下が関与することが分かった。さらにC末端を欠くBLUS1を発現させた形質転換体では青色光に応じて著しい気孔の閉鎖が見られ、この現象はフォトトロピン変異体背景では見られないことから、フォトトロピンは気孔開口のみならず、気孔が開き過ぎないよう閉鎖を誘導する可能性が示唆された。
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