細胞内と細胞外のインターフェイスとして機能する細胞膜の機能発現には、細胞膜タンパク質の量や局在の厳密な制御が必須である。そこでは分泌経路とエンドサイトーシス経路が高度に協調して機能しており、一つ一つの細胞膜タンパク質に固有の量や局在の制御を実現している。一般に、真核生物の膜交通では、進化的に高度に保存された分子群が機能していることが知られている。RAB GTPaseやSNAREはその代表的なものであり、全ての単膜系オルガネラ間輸送でこれらの分子が機能していることが知られている。一方で、それぞれの生物に特有の体制や生理機能を反映し、膜交通経路も生物ごとに多様化していることも明らかになっている。 膜交通経路の多様化には、そこで機能する鍵因子群の機能的多様化が介在したと考えられる。本研究では、植物細胞の内と外とを隔てる細胞膜の機能発現を支える、植物に独自の分泌経路およびエンドサイトーシス経路の制御機構を明らかにすることを目的とし研究を行った。2020年度には,シロイヌナズナのANTHドメインタンパク質であるPICALM1についての解析を進め、この分子が分泌小胞と細胞膜の融合を実行するSNAREであるVAMP72の細胞膜からの回収に必要であることを証明した。さらに、PICALM1の機能が失われると分泌経路が部分的な損傷を受けることも見いだした。これらの成果を,原著論文として公表した。さらに、ゼニゴケゲノム中のANTHドメインタンパク質についても機能解析を進めた。特にANTHドメインに加えキナーゼドメインを持つPICALM-kについての解析を進め,PICALM-kが精子形成時に鞭毛の基部に局在すること,PICALM-kの機能欠失が鞭毛の運動に影響を及ぼす可能性が高いことを見いだした.
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