研究課題/領域番号 |
18H02476
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研究機関 | 国立研究開発法人情報通信研究機構 |
研究代表者 |
古波津 創 国立研究開発法人情報通信研究機構, 未来ICT研究所フロンティア創造総合研究室, 研究員 (40571930)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ショウジョウバエ / 求愛行動 / 視覚行動 / 光遺伝学 / 神経行動学 |
研究実績の概要 |
キイロショウジョウバエの雄は、求愛行動の司令ニューロンであるP1ニューロン群の活動を契機として、雌に対する視覚誘導性の定位行動を開始する。P1ニュー ロン群が視覚刺激に対する雄の行動反応性を変化させ、定位行動を活性化する神経回路機構を解明するため、2つのサブテーマに沿って研究を進め、次の成果を得た。 1. 定位行動の実行に関わる視覚系ニューロンの探索:改変型光応答性イオンチャネルCsChrimsonの異所発現を利用して特定ニューロンを強制活性化し、これにより生じる雄の行動を解析した。その結果、雄が体軸の向きを左右方向に変える「向き直り行動」を引き起こす介在ニューロン群を見出した。「向き直りニューロン」と命名したこのニューロン群は、各脳半球に対をなして分布しており、その左右どちらか一方を選択的に強制活性化すると、活性化した側に向き直る行動が生じた。向き直りニューロンは、求愛関連の視覚情報を伝達するLC10ニューロン群が終末する視結節に神経突起を展開しており、また、向き直り行動はLC10ニューロンを強制活性化することによっても引き起こされる。これらから、向き直りニューロンがLC10ニューロン群からの入力を受けて雌への定位に必要な向き直り行動を惹起することが示唆された。 2. 定位行動活性化に関わる介在ニューロン群の探索:P1ニューロンの下流で機能し、定位行動を活性化する介在ニューロンを探索する目的で、特定ニューロンを光遺伝学的に強制活性化し、これが雄の視覚行動に及ぼす影響を調べた。その結果、tryptophan hydroxylase遺伝子の制御領域を用いたドライバー系統Trh-Gal4で標識されるニューロン集団を強制活性化すると、目の前を左右方向に移動する視覚刺激に追従する向き直り行動が活発化する事が明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
サブテーマ1については、定位行動の主要な構成要素である向き直り行動を惹起する単一ニューロン集団を特定できた。同定した向き直りニューロンの強制活性化で生じる行動表現型は極めて明瞭であるため、このニューロン群は視覚情報を受けて向き直り行動を引き起こす神経回路の主要部分を構成すると考えている。加えて、このニューロン群選択的に外来遺伝子の発現を誘導できるドライバー系統(split-Gal4)系統を複数得た。これは、今後このニューロン群の形態と機能の詳細な解析を進める上で強力なツールとなる。サブテーマ2に関しては、自由行動下にある個体に対して視覚刺激を呈示し、これに対して生じる行動反応を定量する実験系を新たに開発した(2018年度)。2019年度はこれを用いた行動解析により、向き直り行動の活発化に対するTrh-Gal4陽性ニューロン群の関与を示唆する結果を得た。この成果を起点としてモザイク解析やintersection法等を用いた解析を進めることで、向き直り行動を活性化するニューロンを単一集団まで絞り込めると考えている。以上から、本課題は順調に概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度までは定位行動の実行と制御に関わる個々のニューロン群の同定に注力したが、2020年度は同定したニューロン群相互の接続関係の検討にも力を入れる。具体的な取り組みの内容は次の通りである。 1. 向き直り行動の実行に関わるニューロン間の接続解析:向き直りニューロンはLC10ニューロンの標的であることが想定される。この可能性を解剖学的解析・生理学的解析により検討する。解剖学的解析には分子遺伝学的ツールを用いたシナプス標識法(syb-GRASP)やニューロンの部位特異的マーカー(Syt-GFPやDenmark-RFP)等を用いる。また、LC10ニューロンには形態的特徴が異なる4つの亜集団があることを踏まえ、向き直りニューロンの視結節内における支配領域を単一ニューロンレベルで明らかにする。これらを通し、向き直りニューロンとLC10ニューロンとの間のシナプス接続の有無を調べ、接続がある場合はその接続マップを明らかにする。さらに定位行動を引き起こす視覚刺激の呈示下でCa2+イメージングを行い、LC10ニューロンと向き直りニューロンにおけるCa2+活動を比較解析する。これにより、両者が機能的に接続しているかどうかを検討する。 2. 向き直り行動を活発化するTrh-Gal4陽性ニューロンの同定:2019年度と同じ実験系を用いてモザイク解析を行い、向き直り行動を活発化するTrh-Gal4陽性ニューロン小集団を同定する。期待したニューロン小集団の同定後は、そのニューロン小集団と、P1ニューロンや向き直りニューロンおよびLC10ニューロンとの間の神経接続の有無を解剖学的に検討する。また、P1ニューロン群を活性化する雌フェロモン刺激や、P1ニューロン群の光遺伝学的強制活性化を用いたCa2+イメージングにより、同定したニューロン小集団とP1ニューロンとの間に機能的な接続があるかどうかを検討する。
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