研究課題/領域番号 |
18H02479
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
竹内 秀明 岡山大学, 自然科学研究科, 特任教授 (00376534)
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研究分担者 |
王 牧芸 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特任研究員 (70781152)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | オキシトシン |
研究実績の概要 |
これまでにメダカは個体認知に基づく高度な社会行動を示すことを発見した。例えば、メスメダカは性行動前に長時間見ていたオスを視覚記憶し、個体認知を介して「親密性の高いオス」を配偶相手として選択し、「見知らぬオス」を拒絶する傾向がある(Science 2014)。さらにメスが「顔」を認知して、オスを見分けており、ヒトの心理学実験で有名な倒立顔効果がメダカにも生じることを見出した(elife 2017)。本年度はオキシトシン(OXT)とオキシトシン受容体(OXTR1, OXTR2)をコードする遺伝子の変異体を作成して行動解析を行った結果、oxtまたはoxtr1のどちらかの遺伝子を欠損すると、メスは異性の好みを失い、「見知らぬオス」を「親密性の高いオス」と同じように受け入れることを発見した。よってオキシトシンもメダカメスの個体認知を介した配偶者選択に必要であることを新たに見出した。一方で、メダカはオスとメスで配偶戦略が異なっており、メスには異性の好みがあるが、オスは特に異性の好みを持たない。しかし、変異体オスは同じ水槽で育った「親密なメス」に対する異常な好みを持つことを見出した。よってメダカにおいてオキシトシンはメスとオスで逆の効果を持つことを発見した。これに加え、オキシトシンの新規標的分子をしてC1qを同定した本年度の研究成果は2020年2月18日にProceedings of the National Academy of Sciences誌に掲載された(竹内が最終著者・責任著者)。東北大、北大、基礎生物学研究から共同プレスリリースを行った結果、NHKニュース(北海道版、全国版)等のメディア紹介された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
変異体の解析から、顔認知を介した配偶者選択にオキシトシンが関わることを発見することができた。これに加え、オキシトシン変異体のオスは個体認知を介した配偶者選択をするようになることも見出した。多くの動物は自分自身の子孫を残すために性的パートナーを選択するが、その配偶戦略は性によって異なっている。メダカの場合も、野生型のメスは親密パートナーを選択する傾向があり、オスはできるだけ多くのメスと子孫を残そうとする傾向がある。しかしながら、配偶戦略の性差を生み出す神経基盤はこれまで不明であった。メダカを用いた基礎研究から、オキシトシンシステムが配偶戦略の性差発現機序に必須なシステムであることを世界に先駆けて示すことができた。さらに、当該年度では。C1qがシナプス除去に関わる分子であり、雌雄にかかわらずシナプス除去を介して成熟する神経回路がメダカの顔認知や行動選択に関わる可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度に、オキシトシンシステムの標的分子を検索する目的で、oxt/oxtr1の変異体において性差を問わず発現が変動する遺伝子を検索したところ、C1q複合体を構成する3つのサブユニット鎖(C1qA, C1qB, C1qC)をコードする遺伝子の発現が共に顕著に低下することを発見した。C1qは脳発達期にプレシナプスから分泌され、ミクログリアを介したシナプスの刈り込みに働く。一方で、オキシトシンシステムが成体脳だけなく、脳発達期に神経ネットワークの発達や性特異的な行動発達に重要な役割をもつことがわかってきた4。そこで本研究では脳発達期にオキシトシンシステムがC1qを活性化し、シナプスの刈り込みを介して顔認知に関わる神経ネットワークの発達を制御する可能性を検証する。C1q発現ニューロンだけでなく、個体認知を介した配偶者選択に関わるニューロン(GnRH3)のシナプスの可視化をしてオキシトシンによって刈り込みが促進するかを検定する。
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