研究課題/領域番号 |
18H02479
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
竹内 秀明 東北大学, 生命科学研究科, 教授 (00376534)
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研究分担者 |
王 牧芸 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特任研究員 (70781152)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ソーシャルサリエンス仮説 / オキシトシン / 上丘 / 視蓋 |
研究実績の概要 |
昨年度は、オキシトシンはメダカにおいて「親密な異性」への好みをオス・メスの両方で制御することを発見した(PNAS 2020、竹内責任著者)。本年度はオキシトシン作用部位を検索する目的 でメダカ脳でオキシトシン受容体の発現解析を行った結果、本能行動や情動中枢だけでなく、一次視覚中枢である視蓋の一層に選択的に強く発現することを見出した。脊椎動物ではオキシトシン受容体は社会認知・行動選択に関わる脳部位に発現している。嗅覚情報を介して同種認知する齧歯類ではオキシトシン受容体は 一次嗅覚中枢に発現しており、視覚情報を用いる霊長類では上丘(一次視覚中枢)や大脳視覚野に発現する。齧歯類ではオキシトシンは一次嗅覚中枢で社会シグナルに対する感度を高める働きがあり、霊長類でも同様の機能を持つことが推測されている(ソーシャルサリエンス仮説)。霊長類では外界の視覚情報は網膜で受容され、膝状体視覚系を介して大脳皮質の一次視覚野に入力した後に、大脳皮質内の階層的なネットワーク(2次以上の視覚野)を介して「顔情報」が抽出されると考えられている。一方で、霊長類では膝状体視覚系を経由しない上丘を介した視覚情報処理経路(膝状体「外」視覚経路)も存在している。興味深いことに霊長類の上丘は本能的認知の役割を担っており、生後直後の新生児において先天的な顔認知に関わっている。霊長類の上丘は魚類の視蓋に対応していることから、メダカ視蓋のオキシトシン受容体発現ニューロンは同種からの視覚情報を抽出する役割を持っている可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度、オキシトシンがメダカにおいて個体認知を介した配偶者選択に関わることを発見した。本年度はオキシトシン作用部位を検索する過程で、オキシトシンが一次視覚中枢である視蓋の一層で機能する可能性を示唆できた。真骨魚類の視蓋は霊長類の膝状体「外」視覚経路の一次中枢である上丘に対応しており、霊長類の上丘は新生児の先天的な顔認知に関わる。真骨魚類は霊長類の持つ膝状体視覚系が退化しており、発達した視蓋(膝状体「外」視覚経路)によって視覚的な同種の情報を抽出していることが予想される。よって、今後、魚類の視蓋オキシトシン受容体発現ニューロンに着目した研究により、霊長類との間で保存された顔認知(同種認知)に仕組みが明らかになる可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
メダカ(魚類)では霊長類の上丘に相当する視蓋にオキシトシン受容体が発現する。オキシトシン受容体の変異体には「親密な異性」への好みに異常が生じることから、オキシトシンは視蓋において視覚を介した社会認知機能にバイアスをかける可能性がある。また霊長類でも上丘でオキシトシン受容体が発現することから、メダカの基礎研究から上丘におけるオキシトシンの役割(ソーシャルサリエンス仮説)を分子遺伝学的手法を用いて解明できる可能性がある。次年度はオキシトシン受容体ニューロンの遺伝子発現プロファイルを作成する目的で、シングルセルトランスクリプトームを実施して、視蓋オキシトシン受容体ニューロンのマーカー遺伝子を同定する。これにより視蓋オキシトシン受容体ニューロンの神経機能を修飾する遺伝学的ツールを整備し、顔認知(同種認知)機能における役割を解析する。
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