近年、多様な動物の脳において、光受容タンパク質様遺伝子が発現していることが報告され、動物の脳における未知の光利用の可能性に注目が集まっている。しかしながら、それらの遺伝子が真に光受容体として機能する証拠がなかったために、脳内光受容が関わる生理機能の解析は立ち遅れていた。近年私たちは、昆虫や脊椎動物(魚類、鳥類)において、同遺伝子産物が光受容体として機能することを明らかにした。 そこで本研究では、脊椎動物の機能未知脳内光受容に関して、分子・神経基盤および生理的役割の解明とそれらの進化・多様性を明らかにすることを目指し、脳内光受容タンパク質を起点とした研究を展開している。その結果、2021年度は以下の研究成果を得た。
・昨年度、初めて光受容体の構成に成功した哺乳類の脳内光受容タンパク質について、培養細胞系を用いたアッセイを行た結果、既知のGPCRシグナリングのいずれについても光依存的な活性化は検出されなかった。一方で、同様の解析において、魚類のホモログでは光依存的な活性化が見られたことから、哺乳類と魚類との間に、脳内光受容タンパク質の分子特性に違いがあることが示唆された。 ・魚類と哺乳類の脳内光受容タンパク質の分子特性の違いを進化的に理解するために、爬虫類の脳内光受容タンパク質についても分子特性の解析を行ったところ、爬虫類ホモログについても光受容能が確認され、また、爬虫類において、脳内光受容タンパク質の種特異的な波長感受性の多様性が見出された。 ・複数種の哺乳類の脳内光受容タンパク質について特異的抗体を作製し、免疫組織学的解析を行った。その結果、それぞれの哺乳類における脳内光受容タンパク質の発現分布を明らかにし、哺乳類の脳内光受容が関わる生理機能を理解する上で重要な知見を得た。
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