模様の形成機構の研究は、それ自体のみならず、組織のパターニングの原理や、表現型進化の理解に大きく貢献してきた。代表者はミズタマショウジョウバエを用いて、そのユニークな模様形質と実験的操作性の高さを生かし、模様の形成機構と新しい形質の進化に関する研究を展開してきた。本研究では翅の模様形成に関わるすべての主要な遺伝子を同定し、近年確立したゲノム編集の手法で遺伝子機能を解析し、模様形成機構を完全に理解することを目指す。 ミズタマショウジョウバエの模様形成の仕組みを、関与する遺伝子を網羅する形で、それらの機能を含めて理解する、そして、種間比較によりキイロショウジョウバエと何がどのように異なるのか(進化してきたのか)を明らかにすることを目指す。これまでにミズタマショウジョウバエで模様形成の鍵となる遺伝子が複数(上流のwinglessと、下流のyellowなど)明らかになっている。winglessとは脊椎動物のWnt-1のホモログであり、パターニングや細胞分化を制御する分泌性シグナル伝達因子をコードする遺伝子である。yellowは昆虫のメラニン合成を担う遺伝子として知られている。網羅的アプローチと個別的なアプローチを組み合わせ、これら以外の模様形成に必要な遺伝子のネットワークを明らかにするための研究を続けている。 本年度は、ミズタマショウジョウバエに特異的な遺伝子発現を制御するエンハンサーの機能を解析し、そのエンハンサーに情報入力している因子の候補を絞り込むことができた。また、ゲノム編集による遺伝子機能の解析法の改良、トランスポゾンによる遺伝子発現操作系の作成に取り組んだ。
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