研究課題/領域番号 |
18H02487
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
鈴木 孝幸 名古屋大学, 生命農学研究科, 准教授 (40451629)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 脊椎骨 / 後肢 / 前後軸 / 多様性 / エンハンサー / 非モデル動物 / 進化 / 発生 |
研究実績の概要 |
平成30年12月、DNAサンプルの品質チェックの過程で、当初の想定に反し、ATAC-seq実験に必要なクロマチン品質が低いことが判明した。このため、凍結マウス胚を用いて高純度クロマチンを入手する方法を検討するか、凍結しないシマヘビ、スッポン(以上2種は7月のみ入手可能 )、およびマウス胚から再度クロマチンの入手を試みるかの2種類の方法を検討する必要が生じた。そこで再度研究計画を練り直し、凍結胚からのクロマチンの精製を試みた所、凍結しない胚からクロマチンを精鋭した方が安定して純度の高いクロマチンが精製出来ることが判明した。そのため、7月にのみ入手可能なシマヘビ、スッポンの胚を再度入手し、凍結せずにクロマチンを精製し、ATAC-seqのサンプルを作成することに成功した。また同様にマウス胚、ニワトリ胚からも組織を単離し、ATAC-seqのサンプルを作成した。これにより研究計画の遅れを取り戻すことに成功した。クロマチンサンプルからバーコードを挿入したプライマーを用いてPCRの行程を行い、オープンクロマチン領域を濃縮し、次世代シークエンスを用いてエンハンサー候補領域となるオープンクロマチン領域の配列を複数得ることに成功した。特にマウスのデータについてはこれまでに報告されている異なる細胞種でのATAC-seqのデータと照らし合わせ、さらにはHistoneH3K27Acの領域とも比較しながらエンハンサーの候補配列を選定した。その結果、これまで当初予定していたよりも遠くの領域にGdf11のエンハンサー候補領域が複数存在することが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ATAC-seqのデータ解析を進めている。スッポン胚のATAC-seqのデータはこれまでNCBIに登録されている全ゲノムをリファレンスにして貼付け作業を行ったが、ゲノムのデータが不完全でATAC-seqの結果得られたリードで貼付けられないものが多数存在することが分かった。そこで、ミドリガメやウミガメのゲノムをリファレンスにした所、コーディング領域以外のノンコーディング領域にもATAC-seqのリードが効率よく貼付けられることが分かった。この結果を用いてスッポンのGdf11遺伝子周辺の配列を調べた結果、マウスには存在しないスッポン特異的なオープンクロマチン領域を同定することに成功した。またニワトリ胚から得られた結果を赤色野鶏のゲノムに貼付けた所、同様にニワトリ特異的なオープンクロマチンの領域を同定することに成功した。シマヘビ胚から得られたデータはシマヘビのゲノムがまだ解読されていないため、台湾ハブとコーンスネークのゲノムに貼付けを行った。その結果、シマヘビと系統的に近いことが予想された台湾ハブのゲノムも多くが断片化されて繋がってない領域があり、シマヘビのATAC-seqのデータも貼り付かない配列が多く存在した。Gd11遺伝子座周辺もピークは観察されるがゲノムが断片化していたためGdf11遺伝子からどの程度離れている場所なのか正確には分からなかった。このことから、シマヘビのゲノムをリファレンスとしてATAC-seqのデータを再解析する必要があることが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
シマヘビ胚のATAC-seqの結果を台湾ハブに貼付けた結果から、シマヘビ自体のゲノムをリファレンスとしてATAC-seqの結果を再解析する必要があることが分かった。そこで今後はシマヘビのゲノムをde novoで次世代シークエンサーを用いて配列を同定し、独自に得られたシマヘビゲノムのデータを利用してGdf11の遺伝子座周辺のオープンクロマチン領域を推定していく予定である。また、シマヘビ胚以外のマウス、ニワトリ、スッポンのそれぞれの胚から得られたATAC-seqのデータより各種に特異的なGdf11遺伝子のエンハンサー候補領域が複数推定された。今後は、これらの配列の下流にEGFPを挿入し、まずはニワトリ胚への電気穿孔法を用いてGdf11 が発現する中軸中胚葉の領域においてこれらの配列がエンハンサー活性を所持しているのかを明らかにする。マウスのエンハンサー候補配列でエンハンサー活性が見られた配列についてはエンハンサー候補配列の標的遺伝子破壊マウスを作成し、Gdf11の中軸中胚葉での発現量、もしくは発現のタイミングが遅くなるかどうかをqPCR を用いて解析する。またエンハンサー候補領域のホモ接合体の胚を採取し、骨染色を用いて後肢が接続している仙椎の位置を観察する。Gdf11遺伝子の発現量や発現のタイミングが遅くなっていれば、仙椎の位置が体の後側にずれることが期待される。これによりエンハンサー候補配列のin vivoにおける必要性を検証する。また今後は、スッポン胚やシマヘビ胚を用いてGdf11遺伝子のエンハンサー活性を調べて行く必要がある。スッポンやシマヘビは7月にしか産卵しないため、研究室内で1年中研究することは現在出来ない。そこで今後はスッポン胚、シマヘビ胚より繊維芽細胞を単離し、この細胞を用いてスッポン、シマヘビのiPS細胞を樹立することを試みる。
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