我々はこれまでの研究で、「四肢動物の後肢の位置の多様性は、胎児期の中軸中胚葉に発現する分泌因子であるGdf11の発現開始タイミングの違いによって生み出される」と言う発生学的メカニズムを明らかにした。そこで本研究では、後肢の位置の多様性を生み出すGdf11の発現開始タイミングが、何故種によって異なるのか、その分子機構を明らかにすることを目的としている。3年目までの研究で、頭から後肢までの脊椎骨の数が異なるスッポン胚、ニワトリ胚、マウス胚を用いてATAC-seqを行い、各種の生物におけるエンハンサー候補配列を取得しエンハンサー活性を評価した。本年度は、昨年度までにやや遅れていたシマヘビ胚におけるエンハンサー候補配列を推定するためのATAC-seqを行った。その結果、3年目までと異なり再現性の良いデータを取得することに成功した。これらの配列をクロニーングし、エンハンサー活性を調べるためのベクターに挿入するところまで実験が進んだ。また3年目までの研究で明らかになった種を超えて共通なエンハンサー領域である領域Bと領域Fの機能解析をCRISPER/Cas9システムを用いたエンハンサーノックアウトマウスを作成することにより解析した。得られたキメラマウスから野生型のマウスとの交配によりヘテロマウスを得たのちにそれらを交配させホモ胚を採取した。ホモ胚を用いてGdf11のin situ hybridization及びRT-qPCRによるGdf11の発現量を定量化した。その結果、領域Bと領域Fのホモエンハンサーノックアウトマウスにおいて発生中の前体節中胚葉におけるGdf11の発現量が低下した。またホモノックアウトマウスの新生児を採取し、骨染色により後肢の位置が変化しているかどうかを調べた結果、どちらのノックアウトマウスにおいても後肢の位置が脊椎骨1-3個分体の後側に移動した。
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