研究課題/領域番号 |
18H02488
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
石川 由希 名古屋大学, 理学研究科, 講師 (70722940)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 求愛歌 / ショウジョウバエ / 聴覚 |
研究実績の概要 |
本研究は、モデル生物であるキイロショウジョウバエと近縁種の求愛歌に対する選好性に着目し、その選好性の進化がどのような神経ネットワークの変化によって実現されるのかを解明することを目的とする。キイロショウジョウバエにおいては、聴覚1次ニューロン群やこれに接続する聴覚2, 3次ニューロン群、またその下流にある求愛コマンドニューロン群からなる『聴覚神経ネットワーク』が求愛歌の情報処理に寄与することが知られている。そこで、私たちはこの聴覚神経ネットワークにおける何らかの変化が求愛歌選好性の進化に寄与したという仮説を立てた。これを検証するため、当該年度はまず、近縁種オナジショウジョウバエにおいてキイロショウジョウバエと相同な聴覚1-3次ニューロン群を標識するGAL4系統の確立を行い、各系統において標識されたニューロン群の形態を種間比較した。 キイロショウジョウバエの聴覚1-3次ニューロン群を標識するエンハンサー配列とコアプロモーターを上流にもつGAL4コンストラクトを、φC31システムを用いてオナジショウジョウバエに導入した。マーカー遺伝子の発現によって遺伝子導入が確認された系統に関して、それぞれ標識されたニューロン群を観察すると、全ての系統においてキイロショウジョウバエで報告されているのとよく似た形態を持つニューロン群が標識されていた。さらに、聴覚2次ニューロンを標識した系統では、このニューロンが音刺激に応答することが確かめられた。これらのことから、当該年度は計画どおりキイロショウジョウバエとオナジショウジョウバエの相同な聴覚ニューロン群を標識する系統を得ることができたと結論付けられる。今後はこれらの系統を用いて、聴覚1~3次ニューロンと求愛コマンドニューロンの生理学的性質を種間比較することにより、求愛歌選好性の進化をもたらす神経ネットワークの変化を特定する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
キイロショウジョウバエの聴覚1-3次ニューロン群を標識するエンハンサー配列とコアプロモーターを上流にもつGAL4コンストラクトを、φC31システムを用いてオナジショウジョウバエに導入することで、当初の研究計画どおり、オナジショウジョウバエにおいて聴覚1-3次ニューロン群と求愛コマンドニューロン群を標識するGAL4系統を確立することができた。今後はこれらの系統を用いて、聴覚1~3次ニューロンと求愛コマンドニューロンの生理学的性質を種間比較すれば、求愛歌選好性の進化をもたらす神経ネットワークの変化を特定することができる。生理学的性質を比較するために用いるカルシウムインディケーター発現系統も既に入手済みである。 交付申請書においては、オナジショウジョウバエよりもさらに求愛歌の特性が分化したセーシェルショウジョウバエに、遺伝子導入したオナジショウジョウバエをバッククロスすることによって、遺伝学的ツールを導入する計画を立てていたが、F2世代以降の世代が得られず、うまくいかなかった。このため、今後はキイロショウジョウバエとオナジショウジョウバエの2種に焦点を絞って解析を進めていく。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度の成果により、聴覚1-3次ニューロンの生理学的性質を種間比較する基盤が整った。今後は、今回作成した系統を用いて、これらのニューロン群の求愛歌に対する応答特性を種間比較し、求愛歌選好性の種間差がどのニューロン群の応答性の違いに起因するのかを特定する。具体的には、各ニューロンにカルシウムインディケーターGCamp6を発現させ、カルシウムイメージングを用いてさまざまな求愛歌を与えた際の神経応答を比較する。求愛歌には様々なパラメーターが存在するが、特に種間差や行動機能が明確なパルス歌のパルス間隔に焦点を当てる。また、これまでオナジショウジョウバエとキイロショウジョウバエにおいて、それぞれ同種の求愛歌に対してよく行動応答することは報告されているものの、特にパルス間隔に焦点を絞った選好性を行動レベルで定量した例はない。そこで、今後は、行動レベルのパルス間隔選好性に関しても定量し、聴覚ニューロン群の応答特性と対応付ける。
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