研究課題/領域番号 |
18H02490
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
隅山 健太 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, チームリーダー (00370114)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 発現制御 / エンハンサー / 進化 / 鋤鼻器 / Dlx遺伝子 |
研究実績の概要 |
平成30年度は以下の実験研究を行った。 比較ゲノム解析から明らかになった、高度保存配列Dlx4遺伝子ホメオドメイン領域に有胎盤哺乳類だけに共通する3箇所のアミノ酸置換について、脊椎動物祖先型配列に書き戻したDlx4ノックインマウス系統(DLX4-HDPLA-KI)を確立し、ホモ化に成功した。このマウスについて、鋤鼻器での発現解析をRNA-seq法により行い、野生型(C57BL/6N)との比較を行った。更に、Dlx3ノックアウト(ヘテロ、ホモは致死)およびDlx4ノックアウトホモ各系統も用いて比較を行った。野生型では、鋤鼻器にDlx3、Dlx4ともに強く発現しているが、Dlx4ホモノックアウトではDlx4発現が完全に失われた一方、Dlx3の発現上昇が見られた。Dlx3ヘテロノックアウトではDlx4の発現上昇が見られた。このことはDlx3とDlx4の間で発現量補償が起きている可能性を示唆した。DLX4-HDPLA-KIホモのゲノムワイド発現解析では、一部の遺伝子の発現が変化しているデータが得られた。今後これらの遺伝子の性質について解析を行う予定である。また、鋤鼻器でのDlx3、Dlx4発現を制御するエンハンサー領域の解析を行い、エピゲノム情報やATAC-seqデータなどを手がかりに候補領域を同定、そのうちの2箇所について、in vivoエンハンサー解析実験により鋤鼻器での強力なエンハンサー活性を確認した。この内の一つTAD3エンハンサーに関して、その表現系に及ぼす影響を評価することを目的として欠失型の系統をゲノム編集により作成し、ホモ化に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初ゲノム編集マウスのホモ化交配作業に問題が生じたため系統化に手間取ったが、最終的に目的の系統(DLX4-HDPLA-KI、Dlx4-KO、Dlx34-AT-TAD3-DEL)について、十分な数のホモ化マウスを得ることができた。これにより、頭顔面部組織および鋤鼻器組織を採取しての形態的解析と遺伝子発現解析(RNA-seq)を行うことができた。更にエンハンサーノックアウトのコントロールとするために、鋤鼻器以外の活性を持つエンハンサー部位ノックアウトマウス作製と系統化を行い、Dlx4upTotal-DEL, Dlx4upCTCFCORE-DELの2系統の胎盤エンハンサーノックアウト系統のホモ化にも成功した。DLX4-HDPLA-KI、Dlx4-KOでは、鋤鼻器周囲の骨の脆弱化が観察された。またRNA-seq 解析から、下流遺伝子と思われる複数の遺伝子の発現変動が観察された。まだパラログ間での遺伝子発現補償と思われる現象も発見することができた。さらに鋤鼻器でのエピゲノム状態およびATAC-seqデータなどから絞り込んだ候補についてin vivo機能解析を行い、2つの強い鋤鼻器エンハンサーを同定することができた。この内一つについてはエンハンサーのノックアウトを行い、系統化作業を完了できた。以上、Dlx4祖先型アミノ酸変異導入マウス、Dlx3、Dlx4ノックアウトマウス、鋤鼻器エンハンサーノックアウトマウスの作成と解析について、当初の実験研究計画をおおむね予定通りに進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに系統化が完了したゲノム編集マウスについて、導入変異による発現変化のより正確な定量的解析が必要である。このために新たに定量解析のための実験系を計画、構築する予定である。具体的には、Dlx3野生型配列に同義置換を導入したゲノム編集マウスを作成し、これを各種変異マウス(エンハンサーノックアウトマウスなど)と交配することでヘテロ接合マウスを作成する。これにより、父方由来と母方由来のアリールを区別することが可能になり、完全に同一のトランス因子核内環境下でのcis因子の違いによるアリール間でのDlx3発現量の違いを正確に定量解析できるようになると考えられる。これまでにラットで見出した同義置換をマウスに導入した系統の作製に着手しており、今後は変異導入マウス系統化を行い、まずは同義置換導入によりDlx3発現が影響を受けないこと、雌雄での差がないこと、インプリンティングの影響の有無などを検証し、これらをクリアした上で各種変異による影響の定量化を行っていく計画である。また、鋤鼻器エンハンサーとして同定されたTAD3エンハンサーはより早い発生段階で鰓弓での発現にも関わることが示されている。このエンハンサーと、その周囲の性質をさらに明らかにするため、上記定量解析実験系を用いてE10.5胚の鰓弓での発現についても解析を進める予定である。一方、骨の脆弱化などの表現系の定量的解析が実現できておらず、今後の課題となっている。これについてはmicroCTの活用などを検討したいと考えている。
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