研究実績の概要 |
令和二年度(2020年度および繰り越し延長期間)には、Dlx3/Dlx4周辺領域の次世代ゲノムデータ解析と鋤鼻器ATAC-seqデータ解析により、前年度までに同定していた鋤鼻器エンハンサーTAD3に加えて、その周辺領域に複数の鋤鼻エンハンサー候補を決定した。これら鋤鼻エンハンサー候補の成体マウスの鋤鼻器切片でのレポーターアッセイにより、Frag1(TNV1, TNV5)、TAD3に鋤鼻神経細胞での発現活性を確認することが出来た。このレポーター活性と内在性DLX3タンパク質発現の抗体染色結果とはシグナル位置が重なることから、内在性の発現活性をよく反映するエンハンサーであることが証明できた。 CRISPR/Cas9システムを用いてTNV5からTAD3にかけての26kb領域の欠失マウスを作成した。このマウスはホモ接合個体が正常に繁殖できることを確認した。Dlx3/4遺伝子のノックアウトでは、胎盤発生の異常により胎生致死となることから、今回のノックアウトマウスでは胎盤発現が失われず胎生致死を免れていることがわかった。胎児・成体Δ26kbマウスの鰓弓・胎盤・皮膚・嗅上皮RNAを用いたqRT-PCRにより、これら組織ではDlx3/Dlx4発現が30%~100%維持されていることを確認した。一方、今回の直接のターゲットである鋤鼻器では、成体Δ26kbマウスの鋤鼻器RNAを用いたRNA-seqにより、Dlx3/Dlx4発現が完全に消失していることを確認した。今回作成できた鋤鼻器での特異的なノックアウトマウスは今後Dlx遺伝子群の鋤鼻器機能における役割を明らかにする上で非常に有用なリソースとなることが期待される。これらのデータを既にまとめて論文投稿の最終段階に入っている。
|