トンボは、基本的に視覚で相手を認識するため、体色や斑紋に著しい多様性が見られる。申請者らは、色覚に関わるオプシン遺伝子がトンボで極端に多様化していること、オプシン遺伝子の発現は幼虫と成虫で大きく異なることを見出した。また、アカトンボの体色変化は色素の酸化還元反応が原因であること、シオカラトンボの体色変化はUV反射Waxの産生によることを発見した。これらの知見により「トンボの幼虫と成虫で色覚はどのように変化するのだろうか?」「トンボの体色変化には、どのような遺伝子が関与するのだろうか?」などの素朴な疑問が浮かび上がった。これらの疑問の解明に向けて、申請者らはトンボの遺伝子機能解析系と実験室内飼育系を確立することに成功した。本研究課題では、申請者らが構築した一連の実験系を用いてトンボの色覚と体色形成の分子基盤を深いレベルで解明することを目指す。2023年度は、前年度までに引き続き、色素合成や模様特異的に発現する遺伝子の機能解析を行い、体色に関わる新規遺伝子および遺伝子間ネットワークの解析を進めることができた。特に、幼若ホルモンや脱皮ホルモンのシグナル伝達に関わる転写因子群が成虫の体色形成と雌雄差形成に影響を及ぼすメカニズムについて知見が蓄積した。また、トンボの視覚と紫外線反射メカニズムについて、一般向けの書籍で紹介した。さらに、トンボ以外の昆虫に関しても着色に関わる新規メカニズムや体色形成に関わる新規遺伝子に関して解析し、一部や共著論文として発表した。
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