研究実績の概要 |
熱水・冷湧水や鯨骨・沈木周辺堆積物を含む化学合成動物群集は,近年の深海生物研究の中心的存在である.これら深海化学合成群集の底生動物(ベントス)は,いつ,いかなる環境から,どのように現在の系に進出したのか? また,化学合成系外の深海,特に6,500m以深の超深海において,何がベントスの垂直・水平分布を規定し,種分化はいかにして生ずるのだろうか.本研究では,1)貝類と甲殻類の複数系統を対象に,浅海から海溝最深部まで,化学合成系・非化学合成系の試料を網羅的に採集,個々の種の生息環境と深度分布を詳細に把握し,2)種間系統樹構築と化石記録参照により,各環境・深度への進出ルートと絶対年代を探る.また,3)初期発生様式が,異なる環境・水深・地域間の移動を規定する主因の1つであるとの仮説のもと,個々の種について幼生生態を解明し,成体の時空分布・遺伝的分化の程度と対比,化学合成系と超深海における動物の起源と進化を理解する. 本課題について,これまでに得た成果を2021年以降に8編の論文として公表した.特に,深海種の分布についての成果をZoological Journal of the Linnean Society誌およびMolecular Phylogenetics and Evolution誌にて公表したほか,深海の種を多数含む腹足類の複数系統について系統解析を行いScientific Reports, Journal of Molluscan Studies誌等にて公表した.また,東北・北海道・四国・九州沖での漸深海ならびに深海トロール調査を実施,大きな成果を得た.さらに,次世代シーケンサーを用いた腹足類の大規模ゲノム情報取得を実施したほか,東北沖を中心とした深海性貝類の網羅的DNAバーコーディング,幼生の殻体元素解析についても継続して実施し,興味深い結果を得ている.
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