研究課題
環境ゲノミクスの発展により、培養例のない系統群Candidate Phyla Radiation(CPR)がバクテリアの多様性の15%以上を占めることが明らかとなった。ゲノムから見えるCPR細菌の特徴は、アミノ酸、核酸、脂質の生合成経路の多くを欠き、リボソームRNA遺伝子内にイントロンをコードし、呼吸代謝系を持たないというもので、その生き様は全くの謎である。我々はCPR細菌の1つであるOD1細菌が強アルカリ・超還元的な蛇紋岩湧水中で優占することを突き止めた。実環境でのOD1細菌のメタトランスクリプトーム情報は我々の知る限り、報告はされていない。GPS1とBS5の2つの泉は、どちらも蛇紋岩化反応湧水が滲出しているが、それぞれ、塩濃度など化学的特性が異なる。よって、化各々の泉に生息する微生物の遺伝子発現挙動は異なると予想した。実際、OD1以外の多くの微生物は遺伝子発現には変化がみられたが、ここに生息する7種のOD1細菌に関しては、転写の変化がほとんど見られなかった。よって、OD1のもつ転写活性制御系に着目したところ、少なくともOD1ゲノム上には、2つのシグマ因子をコードしていることが分かった。よって、環境変化に対し、遺伝子発現応答をする可能性が示された。また、各種環境由来のOD1細菌のゲノム情報を調べた結果、OD1細菌の中のNealsonbacteriaは蛇紋岩化反応サイトのみならず、アルカリ環境特異的に存在することが明らかとなってきた。OD1細菌の生態はいまだ謎に包まれているが、少なくともアルカリ環境に適応するOD1細菌が存在することは明らかとなった。今年度は、共同研究者の事情で、The Cedarsにおけるサンプリングが中止となったが、メタトランスクリプトームなどの解析を進めるに至った。
3: やや遅れている
ゲノム解析、トランスクリプトーム解析は進む一方で、共同研究者の事情により、サンプリングが行えなかったことから、現場サンプルデータ解析が遅れている。
コロナ禍で、The Cedarsでのサンプリングが事実上不可能となった。よって、国内のサンプリングサイトでのサンプリングサイトを検討した。The Cedarsと類似した環境である白馬八方でのOD1ゲノムを抽出することができたため(2020年度)、そこでの解析を推し進めることとする。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 2件)
Frontiers in Microbiology
巻: 10 ページ: 1792
10.3389/fmicb.2019.01729
Philosophical Transactions of the Royal Society A
巻: 378 ページ: 20180425
10.1098/rsta.2018.0425