環境ゲノミクスの発展により、培養例のない系統群Candidate Phyla Radiation(CPR)がバクテリアの多様性の15%以上を占めることが明らかとなった。ゲノムから見えるCPR細菌の特徴は、アミノ酸、核酸、脂質の生合成経路の多くを欠き、リボソームRNA遺伝子内にイントロンをコードし、呼吸代謝系を持たないというもので、その生き様は謎に包まれている。本研究では、CPRに関し、その生存戦略・進化について明らかにしていく研究である。今年度、これまでコロナ禍において遅れが生じていた白馬八方蛇紋岩湧水でのサンプリングを行い、地下CPRのゲノム情報の拡充、遺伝子発現解析、微生物培養、顕微鏡観察などを行った。ゲノム解析、遺伝子発現解析に関しては、順調に進んでおり、現在詳細な解析をおこなっている。一方で、CPRの培養に関しては、安定した培養株を得ることはできなかった。 また、前年度に回収した約450程度の完成度の高いCPRゲノム情報をCPR以外のゲノムと比較し、リボソームに関して、詳細な進化学的解析を行った。その結果、リボソーム生合成系が著しくかけていること、リボソーム、リボソーム蛋白、リボソーム生合成系に関して、それぞれ共進化が進んでいることなど、翻訳機能に関する進化の理解が進んだ。これは、CPRという進化的に特異な微生物の存在があったからこそ見えてきた普遍的な翻訳機能の特性であると言える。このように、現存の知見から見る特殊とも思える生命機能システムを明らかにすることは、生命機能の多様性を明らかにするのみならず、最終的には生命機能の普遍的な理解へとつながることが期待される。
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