研究課題
ナトリウム(Na)は、動物には必須だが植物組織には少ししか含まれておらず、その確保は植物食動物にとり大問題である。本研究では、植物食動物のNa獲得戦略を明らかにすることを目的とし、そのために日本列島スケールで海岸からの距離による森林のNa量をモデル化した上で、海岸というNaホットスポットが存在する場所(屋久島海岸部)と、それがない「普通」の生態系(屋久島上部域、白山)で、環境中のNa分布と、野生ニホンザルとニホンジカの食性資料と組み合わせて野生動物のNa摂取量を推定することを目指す。これら野生動物の糞中のNa再吸収ホルモン(アルドステロン)濃度を調べ、Naが制限される野生下で、腎臓でのNaの回収や食物からの積極的なナトリウム吸収があるのかを調べる。これらを通じて、Naホットスポットがある場合とない場合に、野生の植物食動物は、生存に必要なNaをどう確保するのかという、動物生態学で見過ごされてきた大きな課題を解明する。本年度は、屋久島の海岸部と上部域で、6月に環境を網羅するような樹木の生葉と落葉の採取を行った。これは3度目の採取である。また、白山でも、7月と9月に同様に2回採取を行った。これらのうち、屋久島での採取分については、ナトリウムの測定を終えた。屋久島海岸部と上部域、白山、および宮崎県幸島でニホンザルの新鮮な糞の採取を行い、アルドステロン濃度を測定した。アルドステロン濃度は、海水を常習的に摂取する幸島でのみ、他地域より有意に低かった。また、屋久島海岸部ではシカの糞試料採取も行った。これらの予備的な結果を、3月に開催された日本生態学会大会で発表した。
2: おおむね順調に進展している
屋久島と白山で当初予定していた通り、環境中のナトリウム利用可能性についての採取を進めることができた。ナトリウムに対しての野生個体の生理的反応については、ほぼ予測通りの結果を得ることができた。
すでに得られた試料のナトリウム測定を行う。また、この研究開始以前から収集している屋久島のニホンザルとニホンジカの食物のナトリウム含有量の測定を行い、野生のニホンザル及びニホンジカの具体的なナトリウム摂取レベルを推定する。飼育ニホンザルおよびニホンジカについて、ナトリウム給餌実験を行い、ナトリウム摂取レベルの変化に対し、どのような生理的反応が見られるのかを明らかにする。愛知県、静岡県、岐阜県、石川県の広域で、森林のナトリウム利用可能性を調査するための生葉の採取を行う。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (5件) 備考 (1件)
Ecological Research
巻: 34 ページ: 842~855
10.1111/1440-1703.12059
American Journal of Primatology
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https://www.pri.kyoto-u.ac.jp/shakai-seitai/ecolcons/hanya/index.html