研究課題
本研究は相利共生関係の実態をパートナーによる行動操作という観点から捉え直すことを目的として、(A)アリの行動を操作する化学物質の同定、(B)行動操作に関わる遺伝子および神経回路の特定、(C)シジミチョウによる行動操作がアリの適応度に与える影響の3つの実験を行った。最終年度は(B)と(C)に関する実験を中心に遂行した。(B)アリ脳の遺伝子発現パターンをトランスクリプトームにより網羅的に解析した結果、蜜の摂食によって極少数の遺伝子が発現変動し、それらの遺伝子は全て発現量が減少していた。これらの遺伝子はシナプスでのシグナル伝達に関わる機能を持つことがわかった。また、ドーパミンの合成遺伝子の一つであるtyrosine hydroxylaseおよびドーパミン受容体の1つであるDA1-like receptorの発現量も低下する傾向が見られ、DA1-like receptorは脳の高次中枢であるキノコ体に主に発現していた。このことから蜜によるアリの行動操作はドーパミン経路を介した脳の特定領域の神経活動を低下させることで引き起こされていることが示唆された。(C)様々な栄養状態におけるアリの適応度や採餌行動、シシジミチョウに対する随伴行動を調べる飼育実験を行った結果、高炭水化物条件ではムラサキシシジミとの共生関係によってアリの生存個体数と次世代生産数が増加したが、高タンパク質条件では共生によってアリの次世代生産数が減少した。一方、ムラサキシジミに対する随伴個体数は高タンパク質条件で増加した。また、アリの採餌行動を調べた結果、高タンパク質条件で採 餌個体数が増加したが、様々な餌資源に対する嗜好性は変化しなかった。これらの結果からシジミチョウによる行動操作がアリに与える影響はアリの栄養状態によって異なり、貧栄養状態ではアリコロニーに負の効果をもたらすことが示唆された。
令和2年度が最終年度であるため、記入しない。
すべて 2021 2020
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件)
日本生態学会誌
巻: 70 ページ: 177
10.18960/seitai.70.3_177
Behavioral Ecology and Sociobiology
巻: 74 ページ: 92
10.1007/s00265-020-02876-3
Zoological Science
巻: 37 ページ: 1
10.2108/zs190138