研究課題/領域番号 |
18H02515
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中山 一大 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 准教授 (90433581)
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研究分担者 |
岩本 禎彦 自治医科大学, 医学部, 教授 (10232711)
斉藤 昌之 北海道大学, 獣医学研究院, 名誉教授 (80036441)
西村 貴孝 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(医学系), 助教 (80713148)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 寒冷適応 / 遺伝学 / 生理学 / ヒト / 一塩基多型 |
研究実績の概要 |
グリーランドのイヌイット人を対象としたゲノムワイドな進化遺伝学解析から、同集団の寒冷環境や特殊な食生活への遺伝的適応に寄与していると予想されている2つのゲノム領域FADS1-2-3遺伝子群領域およびTBX15-WARS2遺伝子群領域の一塩基多型(SNP)について、特異的な熱産生組織である褐色脂肪組織の活性への影響および、寒冷曝露時の生理状態の変化への影響を、日本人成人のゲノムコホートを用いて検証した。その結果、FADS1-2-3遺伝子群領域のSNPが褐色脂肪組織活性との関連を示した。さらに、寒冷曝露時の鎖骨上窩(ヒト成人における褐色脂肪組織の主要な集積箇所の一つ)の皮深部の温度変化と有意な関連をしめし、グリーランドイヌイットでほぼ固定されているアレルの保有者が、寒冷曝露中より高い深部皮下温を維持していることが明らかになった。一方、TBX15-WARS2遺伝子群領域のSNPは褐色脂肪組織活性や深部皮下温との関連を示さなかった。FADS1-2-3遺伝子群は不飽和脂肪酸の高度不飽和化に関与する酵素群をコードしており、当初はイヌイットの食生活と関係した適応進化に寄与していると予想されていたが、本成果により、褐色脂肪組織による熱産生能の調節を介して、低温への適応にも寄与している可能性が浮上した。同時に、褐色脂肪組織活性の個人差に寄与するゲノム領域を探索する目的で、日本人を対象としてAxiomジャポニカアレイを用いたゲノムワイドSNP遺伝型判定実験を実施し、アディポネクチン2型受容体遺伝子等の近傍のSNPに有意な関連を認めている。これらのゲノム領域が北方のヒト集団で寒冷適応に関する自然選択を受けたか否かについても検証中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画であった北方東アジア人集団のゲノムワイドSNP遺伝型情報の取得が、サンプル入手時期の見通しが立たず実施できていないが、それを補って興味深い成果が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
東北アジア人集団のゲノムワイドSNP遺伝型情報を取得し、東北アジア人集団が経験した正の自然選択の痕跡を探索する。この結果と、すでに取得済みの日本人の褐色脂肪組織活性のゲノムワイドSNP関連解析の結果と統合することにより、東アジア人の寒冷適応に寄与した可能性が高い領域を抽出する。抽出された領域に存在するSNPについて、寒冷曝露実験での生理計測値との関連を検証し、寒冷適応反応への寄与を明らかにする。
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